研究課題/領域番号 |
19K06760
|
研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
香取 将太 福井大学, 学術研究院医学系部門, 特命助教 (50562394)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 匂い学習 / マウス / 忌避行動 / 接近行動 / ストレス抑制 / 神経活動 |
研究実績の概要 |
本能的判断に基づく行動は生存確率を上げるため多くの場合有益である。しかしながら、本能的判断が逆に生存確率を下げると学習によって判断したときは、本能的判断を抑制し、学習に基づく有益な行動への切り替えが必要となる。特に未熟な状態で生まれる哺乳動物にとって、生後早期は母親の養育が生存に必須なので、虐待やネグレクトのような不適切な養育であっても子は受容し、学習によって母親のケアを増やすように行動を切り替えるはずである。しかし、本能的判断が学習によって抑制されるメカニズムや、本能的な判断を切り替えるメカニズムはよく分かっていない。本プロジェクトではこれらのメカニズムを明らかにすることを目的とした。
本プロジェクトでは、授乳期の母親マウスの腹部に忌避的な匂い物質を塗布するという条件づけを行うと、その仔は短期的にその匂いに対する忌避行動を抑制し、接近行動を示すようになることをこれまでに明らかにしてきた。忌避物質は通常血中のストレスホルモンを上昇させるが、条件づけしたマウスはストレスホルモンの増加が抑制されていた。In situハイブリダイゼーション法によりc-fos遺伝子の発現を脳切片で観察したところ、条件づけしたマウスでは忌避物質を嗅がせても、ストレス、恐怖、痛みに関与する脳領域の発火が抑制されていた。一方、このマウスでは、報酬や意思決定に関与する大脳皮質の発火が亢進していた。大脳皮質がストレス、恐怖、痛みに関与する脳領域の抑制、忌避行動の抑制、接近行動の亢進に関与している可能性がある。そこで大脳皮質の破壊実験を行なったが、これまでのところ明確な効果は見られていない。破壊が不十分であった可能性があるので、今後はこの点を改善していく予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに忌避臭4メチルチアゾール(4MT)を母親マウスに塗布することで、その仔は4MTに対して接近行動を示すようになり、条件づけ学習に成功している。条件づけが成立していない群と成立した群で、4MTに対する神経活動を比較することで、その違いを見つけ出すことであったが、その違いを見つけることができた。具体的には条件づけ非成立群では4MT曝露に対してストレス関連領域の神経活動の亢進が見られたが、条件づけ成立群ではそれらの神経活動の亢進は見られず、前頭皮質の神経活動の亢進が見られた。条件づけ成立群で特異的に神経活動が上昇している領域を破壊し、その機能を同定するために前頭皮質の電気的破壊を行ってきたが、接近行動を抑制するような行動変容は認められなかった。比較のために中立的な匂いであるオイゲノールを母親マウスに塗布する条件づけを行ったが、オイゲノールに対する明確な接近行動は見られなかった。忌避物質であるということが、条件づけ学習の成立に何らかの影響を与えていると考えられる。c-fosの発現解析や母親の行動様式を解析することで条件づけの成立に何が必要条件であるのかについても今後明らかにしていく予定である。当初考えていたようには研究は進んではいないが、情報は着実に増え、おおむね順調に進んでいると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
4MT条件づけ成立群で特異的に神経活動が上昇している領域を破壊し、その機能を同定するために前頭皮質の破壊を行ってきたが、接近行動を抑制するような行動変容は認められなかった。この点を改善するために、電気的破壊から薬理学的破壊へと方法を変更する。また、中立的な匂いでは条件づけが成立しなかったことから、そもそも4MT条件づけの何が必要条件であるのかを見つけ、それを中立的な匂いによる条件づけに加えることで、条件づけ成立の必要十分条件を明らかにしていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、新型コロナウイルスの感染拡大で国内出張や国外出張を控えたことが大きい。今後は物品費の配分を多くしていく予定である。
|