研究課題/領域番号 |
19K06761
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
高木 新 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (90171420)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 摂食運動 / C. elegans / 神経ペプチド / RNAi |
研究実績の概要 |
線虫C. elegansでは、光作動性プロトンポンプArchを利用した体壁筋の活動鎮静化によって、摂食器官である咽頭のポンピング運動が阻害される。この時の「遅い」ポンピング阻害にかかわる神経ペプチド遺伝子を検索した。 RNAi 実験系の確立: 3-4齢幼虫において体壁筋弛緩がおきる緑色光照射条件を決め、この条件下でも体壁筋弛緩によってポンピング阻害が起こることを確認した。ただ従来の成虫を用いた場合に比べると、阻害程度のバラツキが大きかった。さらにpeptide convertaseをコードするegl-3遺伝子の RNAiを行うと、「遅いポンピング阻害」が抑制され、緑色光照射停止後に野生型よりも速いポンピング回復が見られることを確認した。 RNAiライブラリーの準備: ペプチド遺伝子に対するdsRNAを発現する大腸菌のライブラリーを譲与してもらい、これを増殖させてプラスミドを保持していることを確認後、冷凍保存して実験に用いた。 RNAi による神経ペプチド遺伝子検索: flp, nlp, ins系ペプチド遺伝子中、RNAiライブラリーに含まれる108個に関して個別にRNAiを行い、緑色光照射停止後の回復速度を指標として検索を行った。 その結果、1次検索ではflp-4,flp-5,ins-27-の3遺伝子のRNAiによってegl-3 (RNAi)と同様の速い回復が見られた。また、その他8個flp-15(RNAi)、ins-4(RNAi)、ins-14(RNAi)、ins-17(RNAi)、ins-21(RNAi)、ins-24(RNAi)、ins-25(RNAi)、ins-32(RNAi)においても、野生型より速い回復が見られた。ただ、1次検索は比較的少数(10個以下)の個体での実験であるため、実験間での振れである可能性がある。またコントロールでも振れが見られることがあった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
RNAiに対する感受性を向上させる eri-1; lin-15b 二重変異を導入した系統を検索に用いる必要がある。しかし、この系統では成虫でのArch::GFPの発現が顕著に減少しており、従来の照射条件下では緑色光による体壁筋弛緩が引き起こせなかった。 このためArch::GFPの発現の発現低下が比較的少ない幼虫を用いてRNAiスクリーニングを行った。予定通り108個の遺伝子の1次検索は完了し、阻害抑制効果のあるRNAiクローン候補を得たが、以下の理由から再現性の確認が難航している。 1.幼虫では、光照射によるポンピングの阻害程度、および回復程度の個体間でのバラツキが大きい。 2. 幼虫は咽頭サイズが小さくポンピングが計測しにくいため、成虫の実験より労力がかかる. また、脱皮時期の幼虫はポンピングを停止してしまうので測定に利用できないことから、実験の効率が低下している。
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今後の研究の推進方策 |
現在、1次検索で得られた候補遺伝子について照射実験を繰り返している。上述のように個体間でのデータのバラツキが大きいことから、各実験群の個体数を増やすことが必要だと考え。現在、各遺伝子に対して10個体以上を目安に実験を行っている。これでも再現性が低い場合は、幼虫のステージを厳密にそろえるなどして、データのバラツキを抑える 必要があるかもしれない。 上記のライブラリーに含まれず、データベースで存在が確認できた13遺伝子については、RNAi用プラスミドを構築し、RNAiを行う必要がある。 もし複数のペプチドが関与しているなら、単一遺伝子の阻害ではegl-3やunc-31変異と同程度の停止阻害効果が見られない可能性もある。その場合、統計的に有意な差が見られたペプチド遺伝子を候補として、該当する遺伝子の変異体を作成して成虫で照射実験を行うことを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
ペプチドスクリーニングが予想より労力を必要としたため、予定していた感覚受容のプロジェクトが遅れたため。
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