研究課題/領域番号 |
19K06763
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
橘木 修志 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (70324746)
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研究分担者 |
妹尾 圭司 浜松医科大学, 医学部, 准教授 (50283908)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 視細胞 / 錐体 / 桿体 / 外節 / 脂質分布 / 応答形成 / 細胞応答 |
研究実績の概要 |
本研究では、錐体と桿体の光受容部(外節)の脂質組成の違いや構造の違いが光応答の違いに及ぼす影響を検討することにより、細胞の応答様式の制御機構をより 包括的に理解することを目指している。当初計画では、2020年度には、2019年度にひきつづき、(1)外節の脂質組成の違いが錐体・桿体の細胞機能に及ぼす影響、および(2)IRIMS法等による錐体、桿体における視物質周辺の 脂質環境の解析を行う予定であった。それぞれの項目の進展は以下の項目【1】,【2】の通りである。
【1】錐体と桿体の光受容部(外節)における脂質組成の主な違いとして、桿体ではコレステロー ル含有量が低く、一方、不飽和脂肪酸の含有量が高いことが挙げられる。そこで、桿体外節の膜脂質組成を生化学的な手法を用いて錐体に近づけたときにGt活性化が錐体のように変化するか確認したところ、ほとんど影響しないことが明らかになった。その一方で、不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸を持つ蛍光ラベル脂質で錐体、桿体の外節をラベルしたところ、錐体と桿体で各種脂質の分布パターンが異なることを示す結果を得た(学会発表)。このことから、単純に脂質の成分比の違いよりもむしろ、各種脂質の空間分布の違いが細胞の機能の違いの原因となっている可能性が示唆された。
【2】視物質周辺の脂質環境の解析:現在、IRIMS法による検討を続行しており、条件設定を引き続き行っている。これに加え、補完情報を得るべく、視細胞外節における脂質分布を 【1】で示した蛍光ラベル法や質量スペクトルイメージング法(MSイメージング法)で検討した。その結果、外節円盤膜(錐体ではラメラ膜)内での脂質分布情報に加え、従来の方法で観測できなかった桿体外節長軸方向での脂質分布変化を示すデータや、錐体外節と内節形質膜の脂質分布の違いが観測されるに至っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由 本研究の計画では、2020年度には、(1)脂質組成の違いが視細胞の応答形成に影響をおよぼすかどうかの検討、および(2)IRIMS法による錐体、桿体における視物質周辺の脂質環境の解析を行う予定であった。 前項の研究実績の概要にも述べたように、脂質組成についての検討を進めたところ、単純に脂質組成の違いだけでは応答の違いを引き起こすような違いが見られないことを示唆する結果が昨年までに得られた。この知見は、成分の違いだけで何らかの応答の違いの原因になっていると考えていた当初の仮説と異なるものであり、検討の方向性の修正が必要となった。そこで、脂質の空間分布について錐体と桿体では何らかの違いがあるのではないかと考え、蛍光ラベル法によって、脂肪酸の飽和度が異なるリン脂質の分布が錐体・桿体の外節で異なるかどうかを測定したところ、実際に違いがあることを示す結果を得ることができた。さらに、これらの分布を壊すような麻酔剤による操作を行ってみたところ、桿体では細胞の応答に影響が生じるのに対して、錐体ではほとんど影響が出ないこともわかり、外節における脂質の分布(細胞膜微細領域)が両方の細胞で応答の形成に異なる影響を及ぼしていることが強く示唆された。当初の予想とは異なるものの、視細胞の応答形成機構に脂質環境が及ぼす影響を明らかにする上で大きなヒントとなる知見であると思われる。 これらの発見に加え、質量スペクトルイメージング法による観測でも従来知られていなかった視細胞での脂質分布があることを示す結果をえることができた。脂質の細胞内分布について検討を行う新規の2つの方法を導入することにより、今後の成果につながる知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
錐体と桿体の脂質組成の違いが応答に及ぼす影響を検討する上で、2019年度に報告されたHayashi らの桿体外節における脂質組成の分布などに関する論文(共 同研究者の妹尾が共著)は示唆に富んでいる。この論文によると、桿体外節では、各種脂質の分布の違いが示されており、光条件の違いに応じて各種の機能性タ ンパク質がどの領域に分布するのかが変わることが示された。現在までの本研究で、錐体では桿体と異なる脂質分布が存在することが示唆され、さらに、錐体と桿体とでは、応答に及ぼす脂質分布の影響の度合いが異なるであろうこともわかってきた。今後、より詳細に検討を行うことにより、それぞれの視細胞での視細胞微細領域が応答形成にどのように関わっているのか、それがそれぞれの生理機能の必要性を満たすためにどのように働いているのか、そして、視細胞にかぎらず、細胞内情報伝達の仕組みを考えたときに、脂質環境がどのような影響を及ぼしうるのかを明らかにしていきたい。
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