本研究では、錐体と桿体の光受容部(外節)の脂質組成の違いや構造の違いが光応答の違いに及ぼす影響を検討することにより、細胞の応答様式の制御機構をより包括的に理解することを目指している。当初計画では、【1】前年度までに、錐体・桿体の外節における脂質組成の違いを明らかにした上で、それが光情報伝達過程に及ぼす影響を、生化学的手法およびIRIMS法で明らかにする予定であった(脂質組成が応答に及ぼす影響)。また、【2】本年度は、錐体のみに発現するプロミニンのKO個体を作成し、外節形態や光応答に及ぼす影響を検討する予定であった(錐体特異的タンパク質が応答に及ぼす影響)。 本年度、それぞれの課題について研究を行った。 【1】について、これまでに明らかにした錐体と桿体で見られる脂質組成の違いを再現した再構成試料を用いた生化学的検討を行った。しかし、両細胞の応答の違いを説明できる結果を得られなかった。そこで、脂質組成の違いの一因となっていると思われる視細胞内の空間分布の違いに着目し、検討を続行した。その結果、錐体と桿体で飽和脂質、不飽和脂質の集合したクラスターの細胞内配置に違いがみられた。さらに、そのような脂質のクラスターを破壊する麻酔剤を添加したときに生じる応答変化が錐体と桿体では異なることが観察された。以上のことから、錐体・桿体における脂質のクラスター配置がそれぞれの細胞応答に何らかの影響を与えていると考えられる。 【2】については、プロミニン変異体作成過程で変異体を失ってしまう事故があり、現在まだプロミニンの機能の検討に至る段階にない。その一方、並行して作成していた錐体特異的タンパク質Neurocalcin deltaBの変異体作成に成功し、その機能解析を行うことができた。その結果、視細胞の応答に影響を与えていることがわかった。
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