研究課題/領域番号 |
19K06765
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
岡田 龍一 神戸大学, 理学研究科, 学術研究員 (20423006)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ナビゲーション / 脳 / 情報統合 / バーチャルリアリティ / 中心複合体 |
研究実績の概要 |
巣や餌場などの目的地へ移動する「ナビゲーション行動」では、移動中に方向情報と距離情報を逐次取得しそれらを統合して移動を完遂するが、脳内での統合の仕組みについてはほとんどわかっていない。そこで、本研究では採餌経験をさせたミツバチをバーチャルリアリティ空間内で疑似的に採餌のナビゲーション飛行をさせ、その時の脳内のナビゲーション中枢の神経活動を記録し、どのように方向情報と距離情報が脳内で統合されるかを明らかにすることを目的としている。 今年度は、バーチャルリアリティシステムに搭載するためのパラメータを取得する目的で野外に設置したトンネル内をミツバチに採餌飛行させて、その行動を観察した。飛行中に、偏光フィルターを用いた人工的な偏光パターンを与えて、ミツバチが飛行方向の決定に経路中の偏光情報を利用しているかどうかを検証した。ミツバチにとって、およそ200 mの距離を飛行したと「錯覚する」ように設計した長さ6 mのトンネル内で、ミツバチの体軸(つまりトンネルの長軸方向)に対して垂直方向のeベクトルになるように偏光フィルターを設置した場合、トンネル内飛行を経験したミツバチはフライトシミュレータ内でeベクトルが垂直になる方向に飛翔した。一方、平行なeベクトルを経験したミツバチでは、飛行方向に有意な偏りはみられなかった。次に、トンネルの前半と後半ので偏光のeベクトルの方向が直交するように偏光フィルターを設置したところ、ミツバチは主にeベクトル方向の代数的加算方向、つまり右45度あるいは左45度に向かって飛行した。これらのことは、ミツバチが飛行中に受容した偏光情報を利用して飛行方向を決めていることを強く示唆している。これと平行して、電気生理実験の成功率上昇のために、中心複合体に焦点を当てた解剖学を行い、現在解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、フライトシミュレータの実装に必要なミツバチの飛翔行動について検証し、ミツバチが人工的に配置した偏光フィルターで構築した偏光パターンであっても、飛行方向がその偏光パターンの情報を利用し、確かに飛行方向が決定されるとことを確認した。この知見をもとにして、フライトシミュレータのバーチャル刺激をより実際の状況に近づけることができるようになった。また、電気生理実験に必要な脳の標本を作製し、現在詳細な解剖学データの解析を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
バーチャルリアリティの仮想空間をより現実的なものにできるようになったので、この空間内での神経活動の記録を行う。脳の中心複合体の詳細な解剖学的知見をもとに刺入位置や刺入深度を決定する予定である。さらに、実験個体の内部状態をできるだけ「採餌中」モードに保つために、トンネル実験から電気生理実験までの一連の流れを滞りなく円滑にするために、よりよい実験環境を構築する予定である。それらと平行しながら、電気生理実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイスル感染拡大防止のため、予定していた出張がキャンセルになったり、それによって計画していた実験が翌年に持ち越しになったため。繰り越し分は、次年度にそれらを実施するために使用する。
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