研究課題/領域番号 |
19K06766
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
佐倉 緑 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (60421989)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 昆虫 / 偏光 / 定位行動 |
研究実績の概要 |
本研究では、コオロギの偏光定位行動と罰学習を組み合わせた新たな実験パラダイムにより、特定のe-ベクトル方向への定位を学習する際の脳内の偏光感受性ニューロンの応答変化を調査し、ナビゲーションに関わる方向選択の神経基盤を明らかにすることを目的としている。 まずコオロギの偏光に基づくナビゲーションを評価するため、モリスの水迷路学習を応用した「熱迷路」学習の実験系を確立し、特定の偏光パターンとゴールとの位置関係を学習させた。その結果、コオロギは訓練を繰り返すに従って、より早く短い軌跡でゴールにたどり着くようになった。このような行動変化は偏光パターンとゴールとの位置関係が試行ごとに変化するような条件では観察できず、彼らが偏光情報に基づいて空間を認識することが強く示唆された。そこで次のステップとして、ナビゲーション行動の観察と脳神経細胞からの活動記録を同時に行うため、同様の実験系をトレッドミル上で再現できるように、レーザーによる熱刺激とトレッドミルの回転からクローズドループで偏光刺激を制御できるシステムを構築した。これまでに、トレッドミル上のコオロギ個体にゆっくりと回転する偏光刺激に対して自発的な偏光定位行動が発現することが確認できており、現在特定のe-ベクトル方向への定位を学習させる条件を検討中である。 偏光感受性ニューロンからの記録に関しては、ガラス吸引電極を用いて視葉の偏光に感受性のある両側性ニューロンからの細胞外記録を試み、偏光感受性ユニットが取得できることを確認した。現在これらのデータを解析して記録ニューロンの同定を行っている。また、中心複合体ニューロンからの微小ワイヤ電極を用いた記録についても条件検討をすすめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの実験により、行動実験のシステム構築と電気生理学実験の手法の確立が予定通り終了しており、最終目標である行動中の偏光感受性ニューロンの記録に着手できる目途が立っている。最終年度はこれらを組み合わせて、定位学習の神経基盤に迫ることが十分に期待できるため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、トレッドミル上での方向学習についての条件を検討し、学習についての基礎的なデータを取得する。さらに、確立した電気生理学的手法により、学習行動にともなって視葉の偏光感受性ニューロンの応答がどのように変化するかを調べる。さらに、偏光の最高次中枢である中心複合体の偏光感受性ニューロンからの微小ワイヤ電極を用いた記録についても引き続き検討を進め、偏光学習にともなう2つの異なる脳レベルでの偏光情報処理の実体にせまることを最終目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大防止のために予定していた出張が中止になり、またそれによって予定していた実験が翌年に持ち越しになったため。来年度はこれらの実験を実施することで予定通りの支出を見込んでいる。
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