2019ー2020年度にかけての感染症拡大等を原因とする入構制限により、適切な質を有する実験動物(キンギョ)を確保するための採卵・育成の状況が不良であったため、本研究を当初計画通りに遂行することが困難となった。そこで研究計画を修正し、自由遊泳下での恐怖・不安情動推定のための呼吸運動計測法を開発し、これを情動計測へ適用することで本研究の推進を図った。実験動物としてはキンギョの代替として、同じくコイ科魚類であるゼブラフィッシュを用いた。自由遊泳下のゼブラフィッシュの呼吸運動に伴う生体電気現象と、サカナの位置・姿勢変化情報とを統合することに成功した。これにより、長時間の呼吸モニタが可能となった。さらに、今後本研究を発展させるための基礎的段階として、新奇環境における不安情動とその順化過程について、呼吸運動計測と行動計測とを組み合わせて評価することを試みた。その結果、新奇環境における順化過程は2段階に分けられることが明らかとなった。本研究課題は、恐怖学習と運動学習における小脳回路の使い分けを明らかにすることを目的として計画され、無条件刺激が下オリーブ核経由でプルキンエ細胞に入力すること、さらに下オリーブ核が恐怖条件付けに果たす役割について部分的に明らかにすることに成功した。一方、次の段階として計画された、恐怖学習におけるプルキンエ細胞の可塑的変化と運動学習におけるそれとの比較は、上記理由により達成できなかった。しかしながら、計画を修正して遂行された研究により、自由行動下における恐怖・不安情動を定量するための新しいツールの開発に成功した。この成果は、魚類を用いた情動研究への応用が可能であり、情動の神経基盤解明に大いに貢献することが期待できる。
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