研究課題/領域番号 |
19K06769
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
明石 真 山口大学, 時間学研究所, 教授 (30398119)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 概日時計 / 概日リズム / 時計遺伝子 |
研究実績の概要 |
マウス繊維芽細胞を用いて、抑制型時計遺伝子(Cry1やCry2)の概日転写調節配列を標的とするガイドRNA(gRNA)配列を設計してゲノム編集を実施した。概日転写調節配列近傍において大幅な欠失が起こった細胞クローンは、基本転写活性が低下して抑制型時計遺伝子の発現量が低下する危険性があるため排除した。両アリルにおいて抑制型時計遺伝子の概日転写調節配列がピンポイントで破壊されている細胞クローンを選択し、またオフターゲット効果を考慮して複数の細胞クローンを次の解析に使用した。 まず、概日転写調節配列が破壊された細胞において、想定通りこれら遺伝子の転写振動が消失あるいは顕著に減衰していることを確認することができた。具体的には、概日転写調節配列が破壊された細胞に対して細胞間同調刺激を与えた後に、タイムコースサンプリングを行ってmRNA発現量解析を実施することで確認した。一方で、概日転写調節配列の破壊によって基本転写量は大きく変化しないことが確認できた。このような変化が生じると本研究目的の達成を揺るがす問題となるため懸念事項であったが、幸いにも回避することができた。 次に、標的以外の時計遺伝子の発現リズムに対する影響を検証した。もしも、抑制型時計遺伝子の転写振動が概日時計の機能発現において必須ならば、他の時計遺伝子群の発現リズムも大きく減衰するはずである。結果によると、Per2の転写振動は顕著に減衰したにもかかわらず、Bmal1やRev-erbαの転写振動はほとんど減衰しなかった。すなわち、概日時計は少なくとも部分的には機能を維持していることになる。したがって、抑制型時計遺伝子の細胞自律的転写振動は、概日時計の機能発現において不可欠ではないことを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究は当初の計画通りに進んでおり、進行上の問題などは発生していない。しかしながら、解析に必要なサンプル数などが想定を超えて増加しているなどの理由のため、進捗は計画よりも若干遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
培養細胞の実験が順調に進んだため、予定通り、マウスにおける概日転写調節配列の破壊を実施する。マウス個体において行動生理機能の概日リズムへの影響を検討するために、抑制型時計遺伝子において概日転写調節配列が破壊されたマウスを作成する。具体的な操作として、まず、受精卵へgRNAとともに、Cas9をコードするmRNAをインジェクションによって導入する。偽妊娠したメスにこの受精卵を移植することで産仔を得る。ここで注意しなければならないのは、F0個体は全身性モザイクになっている可能性が少なからずあることである。以下の実験でマウスを使用する際は、F1以降の個体を用いることになる。 次に、これらのマウスを用いて、行動生理機能の概日リズムへの影響を調べる。具体的には、概日転写調節配列を破壊したマウスを用いて、自発運動量の概日リズムに与える影響を調べる。この際、オフターゲット効果などによる個体差が出現する可能性も考えて、複数の動物ラインで比較する。外的時間情報から遮断された箱の中で単独飼育して、約1週間にわたる馴化を経て、恒常暗条件下において3週間以上にわたって自発活動量を測定する。得られたデータに対して周期および振幅解析を実施する。さらに、心拍数・呼吸数・体温などの概日リズムへの影響も調べるために、テレメトリーセンサーをマウス体内に留置して、上記と同様な飼育環境において測定する。もしもマウスの概日リズムが消失しなければ、抑制型時計遺伝子群の転写振動は概日リズムの振動源として必須ではないと結論付けられる。 以上のように順調に成果が得られれば、論文投稿に向けた準備を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の研究計画の実施において想定以上の多くの分析サンプルが発生したため、年度内に解析が終了していない。次年度使用額はこの未分析のサンプルの処理に使用する。
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