概日リズムは一日内の時間を予測し、明暗サイクルなどの外部環境に合わせて生体の代謝やホルモン分泌などの生理活動を調整しており、その乱れは様々な疾患の発症リスク増加と関連することから、生体の恒常性維持に重要である。我々の研究室ではこれまでに、ES細胞やマウス初期胚では概日リズムが観察されず、細胞分化と概日時計の形成が共役関係にあることを報告してきた。さらに、ES細胞では時計タンパク質の発現抑制や細胞内局在制御などにより、細胞分化が進むまで体内時計がリズムを刻まないよう厳密に制御されていることを示してきた。しかしながら、細胞分化に伴った体内時計成立メカニズムの全容解明には至っていない。本研究では、概日リズム獲得に必要なエピゲノム制御機構を明らかにするため、ES細胞のin vitro分化誘導培養系をもちいて、概日リズムが無いES細胞から、 分化誘導により概日時計が形成される前後のクロマチンアクセシビリティの解析を行った。その結果、クロマチンアクセシビリティはES細胞から分化1~2週間後で大きく数千カ所以上で変化しており、概日時計が形成される3週目以降ではほとんど変化がないことがわかった。重要なことに、CLOCK/BMAL1の強制発現誘導ES株をつかって、ES細胞で発現していないCLOCKタンパク質を発現させると、細胞分化に伴った概日リズム形成が阻害される。この細胞株のクロマチンアクセシビリティを野生型と比較したところ、野生型で分化1週間後にアクセシビリティが変化するサイトの4割以上において、変化量の低下がみられた。これらの結果は、発生過程において早期にCLOCK/BMAL1タンパク質が機能すると、ステージ特異的なクロマチンリモデリングに干渉することを示しており、哺乳類の遅い体内時計の発生の重要性が示唆された。
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