研究課題/領域番号 |
19K06771
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
渕側 太郎 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (90802934)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 概日リズム / ミツバチ / 神経ペプチド / sNPF |
研究実績の概要 |
野外の複雑な環境に適応する機構のひとつであると考えられている概日リズムの可塑性について、その制御機構はほとんど分かっていない。ここでの概日リズムの可塑性とは、環境に応じて行動や体内生理に一日の周期性を示したり示さなくなったりする現象のことである。これまでに、研究代表者は概日リズムの可塑性を示すセイヨウミツバチを用いて、概日行動リズムを示す個体と示さない個体を比較し、脳に存在し概日リズムを発振する中枢である時計細胞での時計遺伝子の発現量を解析し24時間の周期で振動することを明らかにしていた。本研究では、ショウジョウバエを用いた研究で明らかになりつつある、概日時計の下流で機能する神経ペプチドに注目し、免疫組織化学や、合成ペプチドのインジェクションを用いて、それらの概日リズムの可塑性に果たす機能をミツバチで明らかにすることを目指している。 2019年度は、ミツバチの神経ペプチドIon transport peptide (ITP)、Neuropeptide F (NPF)、さらに short Neuropeptide F (sNPF)に対する抗体を作製し、特異的な染色が得られるか試験した。ITP, NPFにおいては特異的な染色が得られなかったが、sNPFにおいては得られた。染色された領域は、ミツバチにおいて時計細胞として報告のある領域付近であった。今後、それが時計細胞であるかどうかの確認を行う。 本研究には、行動リズムの見られない個体である育児バチを巣から直接採集する手法の確立が必要である。そのためには、採餌個体には限りなく野外に近い採餌行動を行わせつつ、昼夜を問わず巣内からハチ個体のサンプリングを行うことを可能にする、観察巣箱という特別なミツバチ巣箱を当研究室実験室内に設置する必要があった。2019年度は、観察巣箱の設計・製作・育児バチの採集実験を行い、本手法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神経ペプチドをの発現分布の解析に使用可能な抗体1種の確認が完了したので、ペプチドの発現量の経時変化などといった次の段階の解析を実施することが可能になったこと。また、行動リズムの見られない個体である育児バチを巣から直接採集する手法の確立ができたこと。本手法の確立にあたっては、観察巣箱の製作だけでなく、同じ巣から短い時間間隔(数時間おき)でのサンプリングを繰り返し行うので、ハチの行動が過敏になり、採集作業は困難になる。作業を繰り返し習熟することで、これも実施可能であることがチェックできた。
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今後の研究の推進方策 |
リズム可塑性機構に深く関与する神経ペプチドを解明するために、働きバチの脳の時計細胞付近に明瞭な染色が得られた新規sNPF抗体を用いて、引き続き免疫陽性細胞の空間的解析を行う。その際、ショウジョウバエで時計細胞であるかどうかの指標にされる時計遺伝子PERIODに対する抗体、概日時計出力因子であると言われるPDFに対する抗体を用いてsNPFとの共発現を確認する。それらの抗体はすでに当研究室にある。関与の可能性が出てきた神経ペプチドsNPFについて、その受容体であるsNPFRに対する抗体も作成する。これにより、今年度行う予定の経時的な発現パターンの解析をリガンドと受容体の双方で行えるようになる。また、関与しうる神経ペプチドを網羅的に調査する方法として、ペプチドミクス解析の手法の妥当性を検討する。さらに、ショウジョウバエを用いた概日リズム形成に関与する神経ペプチドの研究で第一人者であるドイツ・ヴュルツブルク大のCharlotte Forster教授と打ち合わせを行い、最新情報を収集し研究戦略について方向性の確認を行う。その他は申請書の研究計画通り、神経ペプチドのインジェクションによるgain of function解析、dsRNAのインジェクションによるloss of function解析に向けた技術の確立を行う。以上により、sNPFに関する成果を押さえつつ、本研究の目的であるリズム可塑性機構の解明に向けて、複数のアプローチでの取り組みを継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの影響により国内学会1件がキャンセルになり、その分の旅費を使用しなかった。免疫組織化学による抗体の有効性の検証作業が予想よりも順調に進み労力がかからずアルバイトを雇用しなかったのでその分の人件費を使用しなかった。 2020年度の研究推進方策で述べたように、各方面との打ち合わせ、および研究の過程で生じた新たに必要になった抗体の作製のために、繰り越された研究費を使用する。
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