研究実績の概要 |
軟体動物腹足類であるナメクジの眼は球状レンズ眼であり、網膜にはおよそ300個の視細胞が存在する。ナメクジはこの眼を用いて、視野の前方が明るいか、後方が明るいか、といった視野内における大雑把な明暗の違いを認識できることが分かっている。一方、網膜上における位置によって、視細胞から脳に向けた投射に用いられている神経伝達物質が異なることが、これまでの申請者らの実験結果により明らかとなっている。これらの観察結果は、ナメクジの網膜上において、入射した光の網膜上における位置情報が、脳に向けて投射されるニューロペプチドの種類によりコードされている可能性を示唆している。本研究では、ナメクジの眼から脳に向けた視神経投射の様式を詳細に調べ、さらに脳で感知された光情報との間での相互作用についても明らかにすることを目的とし、実験を行った。その結果、以下の事実が判明した。1.両眼を失ったナメクジでも、脳内の光感知ニューロンで光を感知し、負の光走性行動を起こせることが明らかになった(Nishiyama et al. 2019)。2.眼で得られた光情報と脳内の光感知ニューロン(=Opn5Aを発現する)でとらえられた光情報は、脳内における視神経終末であるoptic neuropileと呼ばれる部位で統合されていることが明らかになった(Matsuo et al. 2020)。3.眼から脳に向けた視神経投射においては、少なくとも12種類のニューロペプチドが神経伝達物質として用いられており、それぞれを用いている視細胞は網膜上で特定の部位を占めていることが明らかになった(Matsuo & Matsuo 2022)。4.眼の視細胞で発現する4種類のオプシンについて、それぞれの吸収スペクトル(感度スペクトル)を決定した(Matsuo, Koyanagi et al.投稿中)。
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