恐怖情動に伴う生理応答・行動変化を担う神経基盤の解明を目指し、齧歯類の天敵臭の構造類似体を用いてマウスに先天的な恐怖情動を誘発させる実験系を用いた。これまでの研究から、天敵臭の構造類似体(チアゾリン誘導体)の受容体としてtransient receptor potential ankyrin 1 (TRPA1)を同定しており、この受容体のノックアウトマウスではチアゾリン誘導体暴露時に誘発される体温、心拍数、あるいは代謝などの低下が観察されなくなることがわかった。また、チアゾリン誘導体暴露によって複数の脳領域が活性化されるが、これら脳領域のうち孤束核および結合腕傍核の活性化はTrpa1に依存しており、Trpa1ノックアウトマウスでは活性化が見られなくなる。孤束核の神経細胞は結合腕傍核に直接投射することが知られている。この孤束核―結合腕傍核を繋ぐ神経回路が恐怖情動に伴う生理応答に関与することを調べるために、結合腕傍核へと投射する孤束核の神経細胞群をDREADD (designer receptors exclusively activated by designer drugs)法を用いて特異的に活性化させた。この結果、チアゾリン誘導体暴露時に誘発されるような体温、心拍数、および代謝の低下が見られた。また結合腕傍核の機能を抑制することでチアゾリン誘導体暴露による生理応答変化が抑圧されることもわかった。これらの結果は孤束核―結合腕傍核経路がチアゾリン誘導体暴露によって誘発される恐怖情動およびそれに伴う生理応答変化に関わることを示唆している。
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