研究課題/領域番号 |
19K06775
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
渡邉 英博 福岡大学, 理学部, 助教 (90535139)
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研究分担者 |
西野 浩史 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (80332477)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ワモンゴキブリ / 性フェロモン / 嗅覚受容体 / 嗅感覚細胞 / 嗅感覚子 / 単一感覚子記録 / RNA干渉 / 性行動 |
研究実績の概要 |
2019年度の本研究課題の研究結果より、ワモンゴキブリでは最終脱皮時に性フェロモン感覚子が形態変化を起こし、それに伴って内在する性フェロモン感覚細胞の応答感度が上昇することが明らかになった。この幼虫と成虫の性フェロモン感覚細胞の受容能の違いは、感覚細胞に発現している性フェロモン受容体の発現量に違いがあるのではという仮説を立て、2020年度は今まで研究が行われていなかった、ワモンゴキブリの性フェロモン受容体を明らかにするための実験に着手した。 昆虫の嗅感覚細胞には特定の匂い物質をリガンドとする嗅覚受容体が発現しており、この嗅覚受容体が嗅感覚細胞に嗅質選択性や応答感度を付与している。昆虫の嗅覚受容体には嗅受容体(Olfactory Receptor: OR)型とイオノトロピック受容体(Ionotoropic Receptor: IR)型の二種類があり、OR型、IR型共に、リガンド結合性の受容体蛋白(OR-X、IR-X)とその共受容体蛋白(coreceptor: Orco、Irco)のヘテロ複合体で形成される。20年度はワモンゴキブリのゲノム情報から候補Orco遺伝子を推定し、RNA干渉法と単一感覚子記録法を用いて、ゴキブリOrcoの機能解析をおこなった。その結果、フェロモンを含む様々な匂い物質ががOR型受容体によって受容されている事を明らかにした。また、抗Orco抗体を作成し、OR型受容体がフェロモン感覚子を含む棒状感覚子に内在する嗅感覚細胞に特異的に発現していることを明らかにした。この、Orcoで行った一連の実験手法を成虫オス特異的に触角上で発現しているOR遺伝子(性フェロモン候補OR-X遺伝子)に対して行うことで、性フェロモン受容体の同定とその機能解析を進めている。並行して、ワモンゴキブリゲノム情報から候補Irco遺伝子も明らかにしており、その機能解析も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では不完全変態昆虫の成長に伴う性フェロモン受容・処理経路の発達過程を明らかにするうえで、以下の三つの研究を並行して進めている。(1)幼虫と成虫の性フェロモン受容能の違いを明らかにする。(2)成長に伴い、脳内で新規に発生するニューロンを同定する。(3)性行動を駆動する脳内ニューロンを同定する。本項では各研究課題の20年度の進捗状況について報告する。 (1)の研究課題では、幼虫と成虫の性フェロモン感覚細胞の応答感度の違いが何に起因するか明らかにするため、ワモンゴキブリの嗅覚受容体の機能解析を進めている。上述のようにワモンゴキブリのOrcoについてはすでに機能的に同定し、性フェロモン受容体についても解析を進めている。(2)の研究課題では、ワモンゴキブリでは、二次嗅覚ニューロンである投射ニューロンは初期発生の段階で全てが発生していることを明らかにした。この投射ニューロンの樹状突起の分布パターンが成長段階依存的に変化することが示唆されたため、現在さらなる実験と解析を進めている。(3)の研究課題では、Orco遺伝子のRNA干渉によって性フェロモン感覚細胞の受容能が著しく減衰したワモンゴキブリを用い、性フェロモン応答性投射ニューロンの応答解析を進めている。その結果、個々の感覚細胞の性フェロモン応答が大きく減衰した個体でも。二次ニューロンである性フェロモン応答性投射ニューロンは十分な強度の性フェロモン応答を示すことが明らかになった。この脳内での性フェロモン応答の補償現象は、成長にともなう性行動の発現機構にも密接に結びついていると考えられるため、現在詳細な解析を進めている。 このように各研究課題において、進展がみられ、一部の研究成果については現在原著論文として投稿準備をしている。このため、本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
20年度の研究により、RNA干渉法と単一感覚子記録法を組み合わせることにより、ワモンゴキブリの嗅覚受容体の解析方法が確立した。21年度は、20年度に引き続き、ワモンゴキブリ成虫オスの触角に特異的に発現している嗅覚受容体遺伝子の解析を進める。ワモンゴキブリの性フェロモン受容体はOR型であることがOrcoの研究を通して明らかになったので、21年度はワモンゴキブリの性フェロモンであるペリプラノンA(PA)およびペリプラノンB(PB)それぞれの受容体(PA-OR、PB-OR)を明らかにすることを目標とする。また、RNA干渉法によってこれらの受容体遺伝子の発現を阻害した個体の性フェロモンに対する行動応答も観察する。 ワモンゴキブリでは最終脱皮時の感覚子の伸長に伴い、内在する感覚細胞の樹状突起も伸長するため、内在感覚細胞の性フェロモン受容体の発現量も増加すると考えらえる。上記の解析と平行して、同定したOrcoやPA-OR、PB-ORの感覚子レベルでの発現量の違いを幼虫と成虫でRT-qPCR法を用い比較する。現在、機能的な解析が済んでいるOrcoを用いて、各成長段階、成虫雌雄の触角を用いて、RT-qPCR法を用いた受容体発現量の比較解析と抗Orco抗体を用いた発現分布の比較を開始している。上記の分子生物学実験については、ワモンゴキブリの分子生物学に精通する総合研究大学院大学の渡邊助教の研究室に、本研究費を用いて学生を派遣し、研究技術の習得を行う予定である。 上記の感覚系の研究に加え、研究分担者である北海道大学西野助教と共同で各成長段階での脳内性フェロモン応答性ニューロンの応答解析も行っている。また、21年度は本研究課題の最終年度になるため、得られた研究成果をまとめ、原著論文として発表していくとともに、学会等でも積極的に発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、参加を計画していた国際学会、国内学会がオンライン形式で開催された。加えて、大学間での出張に関しても大きく制限を受けた。そのため、学会参加や研究打ち合わせ、研究を実施する学生を派遣するための旅費が使用できず、その分の額が次年度使用額としてそのまま持ちこされた。 2021年度は研究課題の最終年度になるので、論文の投稿料等や学会での研究発表のために使用したい。
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