研究課題
ヒト疾患データベースには1,000を超える男性不妊候補遺伝子が登録されている。しかし、これらはオミクス解析によるもので、関連を掘り当てたにすぎない。実際、その多くはマウス、ショウジョウバエといったモデル生物でオス不妊遺伝子に挙げられていない。そこで,これらの候補遺伝子が実際にオスの妊性へ関与するのか,ショウジョウバエをモデルとして検証することを目的とした。これらのヒト疾患データベースでヒト男性不妊との関連が示唆されているものを含め、合計103遺伝子をGAL4/UASシステムを用いたRNAiスクリーニングによって調査した。調査には、2つの生殖細胞系列に特異的、2つの精巣体細胞系列に特異的なGAL4ドライバー、合わせて4系統を用いた。その結果、63の新規オス不妊遺伝子を含む75遺伝子がRNAiノックダウンによってオス不妊あるいは妊性の低下を引き起こすことを明らかにした。細胞増殖異常あるいは増殖過程の障害が表現型として最大グループだが、形態的に正常に見える精子にも関わらず不妊となるものもほぼ同数、見つかった。一般に、精子形成といえば、生殖幹細胞の維持や分化、減数分裂過程を対象とした研究が多く、成熟過程以降の理解はそれほど進んでいない。私たちが今回、見出した新規オス不妊遺伝子のなかには、交尾後、貯精器官である受精嚢に留まれず、すぐに排出されるものもある。精子とメスの細胞・器官とのコミュニケーションに障害があるものと推察される。こうした新たな遺伝子の発見は精子成熟以降のプロセスをより良く理解する助けとなることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
ヒト、マウス、ショウジョウバエのデータベース間でオス不妊遺伝子に共通項が少ないのは、これまでの解析が不十分であったためで、種を超えて精子形成過程に働く遺伝子の多くは共通していることが今回のスクリーニングで示された。この成果のなから、すでに私たちにとって興味深い、父性効果を示す遺伝子あるいは精子とメスの細胞・器官とのコミュニュケーションに働くことが推察される遺伝子を同定した。今後、これらの遺伝子の機能解析を進める計画である。研究の方向性がはっきりと見え、順調に進んでいると評価している。
さらに、スクリーニングする遺伝子を増やすとともに、すでにスクリーニングから同定できた父性効果あるいは精子とメスの細胞・器官とのコミュケーションに働くことが推察される遺伝子について研究を進める。抗体が利用できるものは抗体を、そうでなければゲノム編集によって遺伝子にGFP等のタグをつけることで発現解析から開始する。単純な発現時期、部位だけでなく、オスの体内にある場合とメスに移動してからの分布の違いについて詳細に調査、解析する。GAL4/UAS と組み合わせたCRISPR/Cas9システムによる組織、時期特異的遺伝子破壊あるいはオーキシン依存的タンパク質分解系による組織、時期特異的なタンパク質破壊による影響を評価する。こうした解析を通じ、遺伝子の機能の理解を深め、さらに相互作用分子の同定に繋げる。
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