研究課題/領域番号 |
19K06784
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
齋藤 貴宗 近畿大学, 生物理工学部, 講師 (60741494)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 線虫 / 減数分裂 / 交差型組換え / ホリデイジャンクションリゾルベース / ファンコニ貧血 / 多重ヌクレエース複合体 / 不妊症 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
マルチヌクレエース複合体の減数分裂組換えにおける機能を知るために、him-18変異株のサプレッサー変異の単離、同定を試みた。Ethyl Methanesulfonate (EMS)処理によって、2種類のhim-18サプレッサーを得ることができた。サプレッサーの判断は、him-18変異体の表現型である80%の胚性致死性を、50%以下にする事、ホモで維持できないhim-18変異体を継代維持できる事を指標にした。計300ラインの線虫をスクリーニングした結果、#249と#296がサプレッサーであった。#249は胚性致死性が36%まで低下し、#296は28%まで低下した。 原因遺伝子変異を同定するため、全ゲノムシーンスを行なったところ、#249は94箇所、#296は54箇所のホモ変異が同定された。次に候補遺伝子変異の絞り込みを試みた。サプレッサー変異体(標準株のブリストルバックグランド)に対してハワイアン由来の線虫を数回掛け合わせ、SNPの違いを利用した偽変異削除の実験を行なった。その結果、#249は8箇所、#296は15箇所まで候補遺伝子を絞ることに成功した。今後は二つのラインに関して候補遺伝子変異を一つに絞る事を目指す。 交差型組換えとRNAiの機構との関わりを調査するため、ダイサー様ヘリケースDHR-3 (dicer related helicase 3)の変異体の減数分裂における表現型を観察した。実験にはプロモーターとN末領域が欠損しているfj52というalleleを用いた。drh-3(fj52)は次世代の胚の産出ができないSterileの表現型を示した。今後は生殖細胞形成のどの段階に異常が出ているのか詳細に調べる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
再生不良性貧血であるファンコニ貧血の治療に向けて、その原因遺伝子の一つであるFANCP/SLX4の線虫における変異体(him-18)の解析をした。ファンコニ貧血は、造血幹細胞などでのDNA複製異常に発端する遺伝病であり、現在までにFANCAからFANCWまで22種類の原因遺伝子が同定されている。FANCP/SLX4の線虫ホモログであるHIM-18もヒト同様に、DNA修復の最終ステップであるホリデイジャンクションの解消に働き、DNA intercross link を適切に切断、修復する事が知られている。him-18変異体では80%の胚性致死、およそ50%の減数分裂期交差型組換えの低下も見られた。現在までに、him-18変異体の胚性致死を抑圧するサプレッサーラインを2種類単離できている。その原因遺伝子変異の同定も進めており、#249は96から8、#296は54から15まで候補遺伝子の絞り込みに成功した。進捗状況は、概ね順調と言える。 減数分裂組換えとRNAiの関わりについても解析を進めており、二本鎖RNAをカットするダイサーに似たDRH-3というタンパクをコードする遺伝子の変異体について基本的な表現型の解析を行なった。DRH-3は交差抑制に働くFANCMというタンパクに構造が似ており、RNAiと交差制御の二つの異なる生命現象に関わる可能性がある。drh-3変異体では100% Sterileという生殖異常が見られ、現在、生殖細胞形成ステップ、特に減数分裂前期のどの段階で異常が見られるのか、細胞生物学的、遺伝学的な解析を詳細に進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
今後はhim-18サプレッサーの同定と、それがどのようにhim-18変異体のDNA修復能を回復させるのか明らかにしていく。Taggingによる局在観察、質量分析によるインタラクションパートナーの同定などを予定している。 減数分裂組換えの分布制御の解析を進める予定である。正確な交差の分布に必要とされるSLX-1のnull変異体に関して、交差型組換えの分布をsnip-SNP法やリアルタイムPCR法を用いて測定する。またSLX-1::GFPの染色体局在をチップシーケンスで解析する。交差型組換えは染色体の腕部で促進、中央部で抑制させる事が知られており、SLX-1の局在がどのように交差に影響を与えるのか調べる。SLX-1のヌクレエースドメインとRING/PHD fingerドメインが交差の分布に影響を与えるか各種ポイントミューテーションを導入し検討する。 線虫では、交差が促進される染色体の腕部は、ヒストンH3K9me2/3が多く見られることから、ヘテロクロマチン様構造をしていると考えられている。一方、交差が抑制される染色体中央部では、ヒストンH3K4me3が多く見られ、ユークロマチン様構造が取られていると考えられる。酵母やマウスなどのモデル生物では、交差形成の開始反応であるDNA二重鎖切断は、H3K4me3でマークされるDNA部位で起こりやすい事が知られており、線虫の交差分布の知見と矛盾する。この違いの由来を調査すべく、線虫のH3K9のメチレーションが起こらないmet-2 set-25二重変異体で交差型組換えの分布を測定予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額47円は、物品費の端数として生じた。翌年度分として請求した助成金40万円とともに物品費として使用する計画である。
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