研究課題/領域番号 |
19K06784
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
齋藤 貴宗 近畿大学, 生物理工学部, 講師 (60741494)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 減数分裂 / 線虫 / 交差型組換え / 多重ヌクレエース複合体 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
昨年度の研究成果は2021年1月と3月に行われた、関西地区線虫勉強会で口頭発表した。エピジェネティックな変化がいかにして交差型組換えに影響を与えるかという疑問をヒストンH3K9メチル化酵素であるMET-2とSET-25の変異株で次世代の生存率や交差型組換えの頻度測定などを通じて解析を試みた。set-25変異体では野生株に比較して交差頻度、分布の変化は見られなかった。このことからヒストンH3K9me3が減少しても(おそらくはH3K9me1/2が維持されていれば)交差分布には影響がない事が明らかとなった。 次にslx-1(tm5918)変異の新規変異株について表現型解析をした。従来slx-1にはtm2644という欠失変異が解析されてきたが、欠失サイトが中央からC-末にかけての部分であるため、N-末部分のタンパクの発現が懸念されていた。tm5918変異ではプロモータ領域とN-末の欠失が認められることからNull変異であると結論される。tm5918とtm2644の胚性致死性を比べるとどちらも5%ほどで差異はみられなかった。この結果からtm2644もtm5918と同様にNull alleleである可能性が示唆された。 キアズマ形成にはオーロラカイネースホモログのAIR-2がショートアームに限局する事が重要である。RNAiスクリーニングによってAIR-2の局在が異常になる遺伝子him-17が同定された。him-17変異体では脱リン酸化酵素であるGSP-1/2の発現が低下しており、この事がAIR-2の局在変化を引き起こしたと結論付けた。またhim-17変異体では染色体中央での交差型組換えの頻度が上昇しており、組換えの分布制御の異常がAIR-2の染色体アーム認識にエラーを生じさせた事が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究室がセットアップされ、基本的なデータが取れつつある。him-18変異株のサプレッサー変異の同定では、snip-SNP法により、候補株#249、#296株それぞれ候補遺伝子が7つまで絞り込むことができた。現在#249の候補であるced-7遺伝子について変異体を取得し、him-18変異体と改めて二重変異体を作成し、him-18変異体の80%の次世代胚性致死性が回復するのか検討中である。また同様にced-7をフィーディングRNAiによって効率的にノックダウンする手法を確立中である。 SLX-1のヌクレエースとRING fingerドメインへのポイントミューテーションの導入は概ね良好である。各シングルミュータントの作成が終了しており、現在ミューテーションの網羅的な組み合わせを試しているところである。 SLX-1の染色体局在の確認は蛍光顕微鏡でSLX-1::GFPの蛍光を検出することで行なった。SLX-1は胚と生殖腺で発現量が多く、核内にドット状に局在していた。DAPIで強く染まるヘテロクロマチンには局在があまり見られず、ユークロマチンでの局在が予想された。線虫の染色体は腕部がヘテロクロマチン化、中央部でユークロマチン化している傾向があるため、SLX-1は染色体中央部に局在している可能性が高い。これまでのSLX-1が染色体中央部で交差型組換えを抑制するというデータをサポートするデータを得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
him-18のサプレッサーに関しては、その同定を完了する予定である。候補株#249, #296ともに候補遺伝子が7つまで絞られており、それらのシングルの変異体を取得する。候補のシングル変異体とhim-18シングル変異体を掛け合わせて二重変異体を取得し、him-18変異体の次世代胚性致死の表現型が回復するか検討する。フィーディングRNAi法の確立により簡易にダブルノックダウンを行う事でデータの信頼性を高める。 SLX-1のヌクレエース、RING fingerのポイントミュータント作成はコンストラクトが出来つつある。ともにCRISPR/Cas9とガイドRNAをuncの表現型を示す線虫の生殖腺にマイクロインジェクションする事で候補株を得る予定である。インジェクションマーカーはuncの表現型を回復させるunc-119遺伝子、mcherry蛍光タンパクの2種類を用いる。 SLX-1の染色体局在の詳細なマッピングは、SLX-1::GFP株の抗SLX-1抗体または抗GPF抗体による免疫沈降物のChIP-sequenceを行う事で解決する。各種ヒストン修飾のペプチドアレイを用いてSLX-1が認識するヒストン修飾を明らかにし、蛍光顕微鏡での局在観察、Chip-sequenceのデータと照合して、SLX-1がH3K4meを認識し染色体中央部のユークロマチン領域での交差抑制を担うという仮説の実証を試みる。またin vitroでのユビキチン化アッセイも並行して行い、SLX-1のRINGドメインがE3ユビキチンライゲースの機能を有するか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
4,819円残った理由はコロナ渦で流通が悪く購入に至らなかった消耗品があったからである。 翌年度の消耗品の購入にあてる。
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