研究実績の概要 |
温帯地域の自然環境は季節に伴ってダイナミックに変動し、生物は環境変化を巧みに感知して季節変化に適応している。生物の季節適応機構の理解は、基礎生物学的観点、また農水産業への応用や臨床医学的観点からも重要である。 メダカは長日繁殖動物であるが、生息地の緯度によって日長変化への応答に違いがあることが示唆されていた。我々は、青森県から沖縄県まで各地に由来するメダカを使って短日条件下での生殖腺退縮の程度を比較した結果、低緯度地域に遺伝的に短日への応答が不明瞭な「不応答型」集団が存在することを明らかにした。 本研究では季節繁殖における短日感知と繁殖抑制の分子メカニズム解明を目指し、短日「応答型」の清須および串間、「不応答型」の宮崎のメダカ野生集団を用いて、次世代シーケンサーを利用した順遺伝学的解析およびトランスクリプトーム解析、ゲノム編集技術を応用した機能解析を行った。清須と宮崎F2のゲノムシーケンスデータから、9番染色体上の量的形質遺伝子座 (QTL)周辺の詳細な遺伝地図を作成した。QTL領域内の遺伝子について、翻訳領域のバリアントの検出、長日および短日条件下におけるトランスクリプトーム解析 (RNA-Seq)、季節性の発現変動がみられる遺伝子(Nakayama et al., 2023)の解析結果から候補遺伝子を検討した。さらに、より近縁な串間と宮崎を用いたQTL-seq(Takagi et al., Plant J 2013)から6番および20番染色体のおよそ2 Mbの領域に新規のQTLsを同定した。最終年度は現存する野生集団内の多型比較および論文作成を進めた。本研究で同定された短日応答に関与するQTLs、短日応答時の遺伝子動態の変化は、日長に応じた繁殖停止の分子メカニズムの理解につながることが期待される。
|