本研究では、サンゴ共生藻として知られる褐虫藻と宿主との間で、特に分子や細胞のレベルでどのようなやりとりが行われているかを解析した。その結果、褐虫藻と宿主とのやりとりにおいて重要と考えられる糖代謝産物の授受に関わる分子・細胞レベルでのメカニズムについて、褐虫藻の細胞構造変化を伴う新たな糖輸送経路の存在が確認された。特に、環境変化の一部を反映するような条件による培養法を確立し、環境シグナル応答性の遺伝子群に着目した特異的阻害剤を用いた生理学的実験により、本研究で確認された経路が、これまでに報告されていた経路とは独立な過程により制御されることを示した。これにより、褐虫藻の光合成生産が最終的に宿主へと受け渡されるには複数の経路が関わることが示唆された。またこの細胞構造変化は、刺胞動物細胞内の共生胞と呼ばれるオルガネラ内の環境で生じやすいと考えられることから、共生における宿主側のオルガネラ制御の生理的意義について新たな一面が示された。 また、造礁サンゴにおける初期発生に関する遺伝子発現レベルでの解析により、サンゴの重要なライフイベントに関わる遺伝子群が同定され、サンゴの生息場所決定機構の全容解明への糸口を掴むことができた。これと同時に、共生に関わる可能性のある遺伝子発現変動の端緒が確認されたことから、共生藻を持たないサンゴ幼生の初期発生における共生開始機構の解析へと発展させることが可能となった。
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