研究課題
台湾に生息するスインホーハナサキガエルは、2本の性染色体を繋げた相互転座によっての複合型性染色体を持つ。それゆえ、少なくとも3種類の性決定候補補遺伝子が存在し、そのうち2つは、トリのDMRT1とヒトのSOX3(SRY)であることから、トリとヒトの性決定遺伝子を併せ持つ初めての脊椎動物である。本研究では、3つの性決定遺伝子で構成される複合型性染色体の性決定様式と元祖型を起点としたその進化機構の解明を目的とする。令和元年度は、性染色体の構造解析を行った。これまで2本の染色体の転座がオスに生じたことで4本の性染色体を持つことがわかっていたが、減数第一分裂における染色体の対合を観察したところ、4価染色体ではなく、6価染色体を同定した。このことは、転座が2本の染色体間ではなく、3本の染色体間で生じたことを意味する。そこで、体細胞染色体を再度、詳細に解析したところ、これまでの第1、第7に加え、第3番染色体がオスで異形であることがわかった。しかも、3本の染色体間で生じたのは三つ巴の転座であった。よって、本種の性染色体は、♂X1Y11X2Y2X3Y3-♀X1X1X2X2X3X3と表すことができる。次に、雄の3本のY 染色体に性染色体特有の構造変化が起きているかどうかを調べるため、ヘテロクロマチンの染め分けとCGHを行った。いずれの結果もY染色体に特有のヘテロクロマチンや性特異的シグナルを検出しなかった。それゆえ、Y染色体の構造的特殊化はまだ起きておらず、進化学的に極めて若いY染色体であると推定された。一方、日本に生息する近縁種のコガタハナサキガエルについて染色体を観察したところ、雌雄における染色体の形態およびバンドパターンの違いは見つからなかった。カエル類に典型的な同形の性染色体を持っていると推測された。
2: おおむね順調に進展している
令和元年度の実験計画は、スインホーハナサキガエルとその近縁種のコガタハナサキガエルにおける染色体解析が中心であったが、予定の実験はスインホーの遺伝子マッピングを除いてほぼ達成できたことから、「概ね順調に進んでいる」を選択した。むしろ、染色体の転座が1つではなく3つが同時に起きていることや複雑な染色体の再配列も明らかになった点は予想を大きく上回った成果である。
令和2年度は、スインホーハナサキガエルの6本の性染色体を持つ北方集団、転座がまだ生じていない同形性染色体を持つ中央集団、そして日本に生息する近縁種のコガタハナサキガエルにおいて、ゲノムDNAの1塩基多型解析を行い、性連鎖DNAマーカーを取得する。これにより、現在、性染色体として機能する、性連鎖マーカーの位置する染色体が共通しているかどうかを調べる。とくに、スインホーハナサキガエルにおいて元祖型性染色体がいずれの染色体なのか、さらに、近縁種と合わせて本種群の祖先型性染色体がいずれの染色体であるのかを考察する。1塩基多型の解析は、Diversity Array Techology法を使用し、一方の性に多く出現する配列、一方の性だけに出現する配列を性特異的配列として抽出し、それ以外の配列と合わせてstructure解析やPCA解析を行う。一方、スインホーハナサキガエルとコガタハナサキガエルの地域集団について、ミトコンドリア遺伝子や核のマイクロサテライトを解析し、種内あるいは、種間の系統進化学的関係と遺伝的違いの程度を明らかにし、性染色体の分化の違いとの関係を考察する。
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Genes
巻: 10 ページ: 627
10.3390/genes10080627
Russian Journal of Genetics
巻: 55 ページ: 1041,1045
https://home.hiroshima-u.ac.jp/amphibia/miura/first.html