研究課題
単細胞ホロゾアは、動物に最も近縁な単細胞生物の一群である。単細胞ホロゾアの研究により、動物がいかにして多細胞化したか、その仕組みに迫ることができる。単細胞ホロゾアの一種であるカプサスポラとクレオリマックスから発見された「多細胞性遺伝子」(動物で多細胞体制の構築に使われているにもかかわらず、単細胞ホロゾアが持っている遺伝子)が作る3つのシステム、RTK(受容体型チロシンキナーゼ)シグナリング、Notchシグナリング、ラミニン様構造の単細胞体制における役割を明らかにすることを目標に研究を進めた。まずRTKについては、様々な栄養状態で遺伝子の発現解析を行った。その結果、貧栄養状態でRTKの発現量が軒並み増加し、その増加は富栄養状態に戻すと収束することが分かった。現在RTK下流のMAPキナーゼ経路の挙動を指標に、RTKシグナルと環境条件変動との関連を調べている。次にNotchについては、動物のNotchとの相同性を探る研究が大きく進展した結果、カプサスポラが生活環ステージを切り替える際にカギとなる役割を果たしていることが見えてきた。最後にラミニン様遺伝子については、特異的抗体の作成が予定通り進み、様々な生活環ステージにおけるラミニン様タンパク質の局在が明らかになってきている。現在タンパク質にFLAGタグをつけてその挙動を追跡する実験と合わせ、分泌されたラミニン様タンパク質の役割に迫ろうとしている。
2: おおむね順調に進展している
ほぼ計画通りの成果を挙げられたと言える。その中でもNotch様遺伝子の機能解析に関しては、動物の遺伝子と単細胞ホロゾア遺伝子との意外な相同性が明らかとなり、その機能についてもかなり有力な仮説が得られるまでになった。その一方で、ゲノム中の遺伝子を狙って破壊するゲノム編集は、計画の大きな目標の一つであったが、まだポジティブな結果は得られていない。ただ最近、遺伝子の破壊に至らないまでも、特定の遺伝子の働きを狙って弱めるshRNAという手法が成功しつつあり、遺伝子機能解析を更に進めるための強力なツールになると期待している。
RTK機能解析については、まずリガンド結合部位に対する抗体を作成し、その機能をブロックすることで遺伝子機能を探る。次に、貧栄養状態における細胞全体のチロシンリン酸化の度合いを、タンパク質レベルで解析する。Notchについては、作成した特異的抗体を使用して、様々な生活環ステージにおけるタンパク質の局在を最終的に確認する。特に現時点では、Notchの重要な分子機能の一つである、核への移行という現象が起きる条件がまだ詰め切れておらず、これを最優先で進めたい。ラミニン様遺伝子については、発現解析から、カプサスポラの群体形成に関わるのではないかという仮説を立てているが、まだ抗体による確認ができていない。さらにFLAGタグ付加によるタンパク質の挙動解析と、特異的抗体による挙動解析の結果が一部一致しないという問題が出てきており、タンパク質の翻訳後修飾の有無も含め、様々な可能性を考慮しながらその役割に迫っていく。
所属機関への共通機器として導入されたものがあったため。研究進展の度合いに従い、消耗品費としての使用が増加すると考えられる。特に、当初の計画にはなかった一細胞発現解析に関わる消耗品費の購入を増加させる。
すべて 2019 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
eLife
巻: 8 ページ: e49801-e49801
10.7554/eLife.49801
http://www.pu-hiroshima.ac.jp/p/hsuga