研究課題/領域番号 |
19K06793
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
川口 眞理 上智大学, 理工学部, 准教授 (00612095)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | brood pouch |
研究実績の概要 |
動物の子育ては一般的にはメスが行っているが、タツノオトシゴはオスの育児嚢内で卵を保護し、その後、出産する。育児嚢は、どのような遺伝的な変化によって生じたものなのだろうか?本研究では、進化過程で育児嚢という新奇な器官がどのように生じたのかを考察することを目的としている。 まず、タツノオトシゴHippocampus abdominalisを用いて、育児嚢の形成を誘導したのち、育児嚢の形成前から形成直後の個体の腹側尾部を単離し、RNAを抽出した。それぞれの時期で発現している遺伝子を次世代シーケンサーを用いたRNA-seq解析により比較し、形成前に比べて形成直後に発現量が増大している遺伝子の探査を行った。 上述のRNA-seq解析とは別に、育児嚢の主要な構成組織である胎盤様構造(内腔上皮を含む)と真皮層(体表皮を含む)それぞれで発現している遺伝子のRNA-seq解析はすでに進めており、いずれかの組織で発現量が高い遺伝子が複数見つかっている。この中から、機能未知の遺伝子などに着目して全長のクローン化を行い、in situハイブリダイゼーション法で発現局在を調べた。 一方、タツノオトシゴが属するヨウジウオ科の魚種はいずれも育児嚢をもつがその形態が種によって異なっている。特に、タツノオトシゴと同じ属のピグミーシーホースは成魚でも1~2cm程度の魚種で、育児嚢をもたないと報告されている。そこで、ピグミーシーホースの腹腔を観察したところ、タツノオトシゴの育児嚢と類似した嚢構造をもっていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は申請書に記載した内容での研究を進め、一定の成果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
遺伝子レベルで育児嚢の機能を調べることを目的として、育児嚢の主要な構成組織である胎盤様構造と真皮層それぞれで発現している遺伝子のRNA-seq解析を行い、それぞれの組織に特徴的な遺伝子を同定を進めている。これにより、いくつかの組織特有の遺伝子は見つかってきている。今後もこれらの遺伝子の探査を進めていく予定である。一方で、まだ育児嚢の機能を分子レベルで理解するまでには至っていない。 これまでに予想されてきた育児嚢の機能の1つとしては老廃物の除去がある。抱卵中の育児嚢は入り口がふさがれており、育児嚢は閉鎖空間になっている。胚から出た老廃物は育児嚢からどのように除去されるのだろうか?老廃物としてはアンモニアなどが考えられるので、アンモニアトランスポーターに着目した。アンモニアトランスポーターにはRhBG、RhCG1、RhCG2が知られており、このうちRhBGとRhCG2が上記のRNA-seq解析のデータからタツノオトシゴの育児嚢で発現していることが分かった。両遺伝子の全長をクローン化することができたので、今後はRhBGやRhCGの局在を調べる予定である。また、老廃物にはアンモニアだけでなく、尿素など他の物質も考えられるので、これらのトランスポーターの局在を同様に調べる計画である。特に、これらのトランスポーターが抱卵前と抱卵後で発現量に違いが見られるのか、局在に違いが見られるのか、に着目している。
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次年度使用額が生じた理由 |
分子生物学用の試薬キットを購入するには金額が足りず、別予算でねん出したため、次年度に繰り越した。2020年度に分子生物学用の試薬キットの購入にあてる予定である。
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