環境適応における温度感覚の進化的な変化およびその役割を明らかにするため、産卵の時期や利用する水環境が異なる日本在来の5種の無尾両生類の幼生(オタマジャクシ)を用い、生存に大きな影響を与える高温に対する耐性や行動応答に着目した研究を行った。まず、生息地における野外調査を行ったところ、早春から初夏に産卵する種の幼生は高温に曝される機会が少ないのに対し、浅い水場に夏期にも産卵する種は時に40℃にも達する高温に曝されることが分かった。 そこで、高温耐性の指標として臨界最高温度(正常な姿勢で遊泳可能な上限の温度)を、また、行動応答の指標として忌避温度を決定したところ、生息地において幼生が高温に曝される機会が多い種ほど高温耐性や忌避温度が高い傾向があることが分かった。また、忌避温度の種差は臨界最高温度のそれより2.6倍大きく温度応答はより柔軟に変化してきたことが分かった。 次に、高温受容のセンサー分子としてはたらき、多様な動物種において忌避応答に関与するTRPA1のチャネル特性の比較解析を行った。両生類は既知のTRPA1スプライシングバリアントに加え、新規のスプライシングバリアントを保有していた。2種類のスプライシングバリアントは温度応答特性が異なっていたが、どちらにおいてもTRPA1の温度応答特性と個体レベルの忌避温度の間には密接な関連性があることが示された。 最後に、TRPA1の高温応答行動における生体内での役割を調べるため、飼育が容易なネッタイツメガエルを用い遺伝子破壊系統を作出し、行動解析をおこなった。TRPA1ノックアウトツメガエルは野生型個体に対して高温に対する逃避行動が減弱することを示す予備的な結果を得た。本研究により両生類種が多様な温度ニッチに適応する進化過程においてTRPA1の機能変化が温度感覚およびそれに基づく行動応答の変化を生み出してきたことが明らかとなった。
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