研究課題/領域番号 |
19K06799
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
生田 哲朗 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(海洋生物環境影響研究センター), 技術研究員 (80584846)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 化学合成 / 共生細菌 / シンカイヒバリガイ / 水平感染 |
研究実績の概要 |
令和元年度は本研究の目的である、シンカイヒバリガイ類が栄養を大きく依存する共生細菌を環境から取り込む際の細胞プロセスや分子メカニズムの理解へ向け、以下の研究を行った。 1. 調査航海の実施:相模湾初島沖(深度約900 m)と伊豆小笠原海域明神海丘(深度約1,300 m)に無人深海探査機で潜航し、それぞれの海域でシンカイヒバリガイとヘイトウシンカイヒバリガイ、およびシチヨウシンカイヒバリガイを予定通り採集した。 2. シンカイヒバリガイ、ヘイトウシンカイヒバリガイの相互感染実験:メタン酸化型共生細菌を宿す2種のヒバリガイの共生器官である鰓を切り出してすり潰し、共生細菌の海水懸濁液を調製し、2種の宿主に対して共生細菌の種を同じか、または入れ替えて暴露して一定時間後に適宜固定・保存した。 3. シチヨウシンカイヒバリガイの再感染実験:硫黄酸化型共生細菌を宿すシチヨウシンカイヒバリガイを、本研究の協力先である新江ノ島水族館の無添加水槽で数ヶ月飼育して共生細菌のいない状況を作り出し、これを調査航海で新たに採集した個体と共に同水族館の硫化ナトリウム添加水槽に入れ、そこから数個体を定期的にサンプリングして適宜固定・保存した。得られた試料を用いて、新たに採集した個体から無添加で飼育していた個体への共生細菌再感染現象の確認作業を開始した。 4. シチヨウシンカイヒバリガイの鰓菌細胞内微細構造の観察:シチヨウシンカイヒバリガイ鰓組織内への共生細菌の取り込み機構の理解の基盤となる解剖学的知見を得るため、共生細菌を宿す鰓上皮菌細胞内の詳細な構造を電子顕微鏡で3次元的に観察した。その結果、共生細菌を包むシンビオソームについて、極めて特異な構造を発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究試料採集の機会となった調査航海が想定より遅く、令和2年1月であったため、生物採集とそれらを用いた実験(種を入れ替えた相互感染実験、飼育個体を用いた再感染実験)は、船上および陸上でも予定通り実施出来たが、そこで得た試料を用いたトランスクリプトーム解析や分子生物学・組織化学的解析に本格的に着手するには至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
1. シンカイヒバリガイ、ヘイトウシンカイヒバリガイの相互感染実験:相互入れ替え感染実験で得た試料を用いて、蛍光in situハイブリダイゼーション(ISH)等を行うことで共生細菌の感染の有無とその局在性を観察する。その上でRNAを抽出してトランスクリプトーム解析を行い、その差分から注目される遺伝子について、ISHおよび免疫組織化学法による発現局在解析を行うと共に、電子顕微鏡により共生菌を取り込む鰓細胞の微細構造の観察等を行う。 2. シチヨウシンカイヒバリガイの再感染実験:硫化ナトリウム添加水槽での飼育個体を用いた再感染実験で得た試料を用いて、まずPCRで再感染を確認すると共にqPCR法により亜集団を定量する。また蛍光ISH等による解析を行い、菌亜集団の宿主鰓上皮細胞内の局在性の推移を詳細に観察する。さらに、菌と宿主の細胞増殖に関連する遺伝子の発現局在解析を行い、菌の分布の経時的変化と細胞増殖との関連を検討する。鰓上皮菌細胞内微細構造の三次元的解析を継続して進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究試料採集の機会となった調査航海が令和2年1月であったため、サンプルの入手が想定より遅れ、2種のシンカイヒバリガイ類の相互入れ替え感染実験で得た試料を用いたトランスクリプトーム解析に供するRNAの抽出とcDNAライブラリー構築、およびシチヨウシンカイヒバリガイの再感染実験で得た試料の分子生物学・組織化学的解析に用いる試薬消耗品類は次年度購入することとした。次年度早々から順次これらの試薬消耗品類を購入し、予定通りの解析を進める。
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