令和3年度はシンカイヒバリガイ類が共生細菌を環境から取り込む際の細胞プロセスや分子メカニズムの理解へ向け、以下の研究を行った。 1.シンカイヒバリガイ、ヘイトウシンカイヒバリガイの相互感染再実験の網羅的遺伝子発現解析:前年度外部委託した、RNAseqの次世代シークエンスで得られた配列のアセンブル、アノテーション、発現変動遺伝子の抽出などの解析を行なった。その結果、シンカイヒバリガイにおいて自種と他種の共生細菌の識別に関わると思われる遺伝子がいくつか挙げられ、研究成果をシンポジウムで発表した。 2.シチヨウシンカイヒバリガイの再感染実験:生息現場で共生細菌の再感染を行なったサンプルを確保するため、前年度生息現場に設置した貝の回収を計画したが、海況不良により回収作業を行うことは出来なかった。次年度の調査航海における回収を予定している。 3.シチヨウシンカイヒバリガイの鰓菌細胞内微細構造と共生菌亜集団構造の解析:シチヨウシンカイヒバリガイの鰓上皮菌細胞内超微細構造の3次元的解析と、鰓上皮菌細胞一細胞ごとに含まれる共生細菌の遺伝的多様性の解析の結果をまとめ、学会発表を行うとともに論文を投稿・公開した。 本研究では期間を通して、シンカイヒバリガイ類が共生細菌を鰓に取り込む際に細胞で何が起きているのかを明らかにすることを目指し、各種感染実験や組織科学解析、遺伝子発現解析等を行った。その結果、シンカイヒバリガイ類の共生における細胞内/外の中間的性質を明らかにし、新たな進化モデルを立てるとともに、共生細菌取り込みプロセスについて細胞レベルの新たな仮説を提唱した。さらに、今後より詳細な検討が必要であるが、種特異的な共生細菌の取り込みを可能にする分子メカニズムの予想モデルを構築した。
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