本研究の目的は,タナイス目甲殻類で見出された「雌雄ともに生涯を通じて分散能力がとても低い動物群による矮雄(メスの体サイズの半分以下しかない小さなオス)の獲得」という現象について,分類学的,系統学的,形態学的アプローチからその進化史を理解することである.1880年代より存在が知られるタナイス類の矮雄であるが,過去の研究は主として形態情報に基づいた記載的内容であり,DNA配列情報を用いた研究はほとんど行われていない.2023年度は,主に以下のような成果を挙げた.(1)系統解析に用いる予定の種で未記載種であると判断されたもののうち,3種について計2報の記載論文を執筆し,査読付き英文誌に投稿した.うち1報については既に出版され,他方については掲載受理の報をうけ著者最終稿の形で先行公開された.(2)これまでDNA配列情報が得られたことのない複数のグループについて,塩基配列情報を決定した.2023年度もミトコンドリアゲノムの全長配列決定を継続して行った.(3)タナイス類2種について形態観察および飼育実験を通して性表現に関するデータを得た.本成果については計2報の論文を執筆,査読付き英文誌に投稿し,いずれも既に出版された. 加えて副次的な成果として(4)調査の過程で得られたタナイス以外の無脊椎動物3種について,記載分類学的研究・分子系統解析を行った成果をまとめ,計3報の論文を執筆し,査読付き英文誌に投稿した.いずれも既に出版された.
|