研究課題/領域番号 |
19K06801
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
矢島 由佳 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 准教授 (10587744)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 変形菌 / シスト様菌類 / Cryptomycota / 寄生 |
研究実績の概要 |
今年度の新鮮宿主およびシスト様生物の採集は,新型コロナウイルス感染症拡大の影響で,これまでにシスト様生物が確認されている好雪性変形菌を対象とした野外調査が十分には実施できなかった.しかし夏秋期に見られる変形菌を対象とした野外調査が実施でき,顕微鏡および昨年度確立したPCR法によるシスト様生物の探索を多様な変形菌種に広く実施したところ,シスト様生物が確認されたのは好雪性変形菌のみであり,夏秋期に子実体形成する変形菌では確認されなかった.また,これまで好雪性変形菌の中でも一属でしかこのシスト様生物は見つかっていなかったが,別属からもはじめて確認された.さらに共培養法を検討し,低温での培養において直径1.5 μm程度の球形構造が好雪性変形菌の胞子に付着し,そこから侵入管様構造が変形菌胞子壁を突き抜けている様子や,球形構造の細胞が侵入管を通じて変形菌細胞内へ侵入していると推定される像が観察された.以上の結果から,シスト様菌類の活動期とみられる生活環の一部が示された.研究成果は国際学会の発表に受理され,さらに公益財団法人日本科学協会の海外発表促進助成に採択されたが,学会の開催が2022年に延期となった.またこれまでに得られた標本の蓄積により,変形菌子実体内における当該生物のシスト様構造の存在位置の比較検討が可能となり,変形菌細胞への感染後の挙動には大きく分けて2つのパターンがあり,変形菌側の自浄作用とも考えられるような現象もこの存在位置に関係している可能性が示唆され,国内学会発表を行なった(新型コロナウイルス感染症拡大により開催中止,要旨集発行により発表として認定).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
緊急事態宣言が子実体形成期に重なり好雪性変形菌の野外調査が十分には行えず,また学外機器の利用ができなかったため,当初予定していた新鮮標本を用いた急速凍結・凍結置換固定法や各種染色法の検討とそれによるシスト様構造内の詳細観察が行えなかった.そこで共培養実験と同時進行での生細胞の観察に切り替え,変形菌の生活環ステージごとに化学固定し,シスト様生物の超微細形態の観察を実施した.その結果,本研究課題の目的の一つであるシスト様生物の活動期の一部と推定される現象の発見につながった.今年度は限られた調査期間となったため,これまで得られた生態的特徴を考慮した野外調査を短期集中的に行った結果,少ない標本数ながらも新規の宿主と推定される別属への感染の確認に成功した.また昨年度に明らかとなった健常と思われる好雪性変形菌子実体からもシスト様生物の塩基配列が確認できる現象については,さらにその検証範囲を夏秋に子実体形成する変形菌の種類にも広げ,確立したPCR法によってその判別が可能なことを今年度採集標本によっても確認できた.以上より総合的に,新型コロナウイルス感染症拡大の影響があったものの代替案の実施により新知見がさらに追加され,本研究の遂行はおおむね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
今回新たに好雪性変形菌の別属の一種がシスト様生物の宿主となりうる可能性が示されたが,シスト様生物が確認されているのは1標本のみであるため,今後は特に多様な好雪性変形菌のグループの野外調査も強化する.顕微鏡およびPCRを用いた探索により,好雪性変形菌以外の変形菌から当該生物が見つからず,このシスト様生物は好雪性変形菌に特異的に寄生する可能性が示唆されたが,さらに多種類の変形菌を調査し検証を進める.また,シスト様生物の活動期の一部と推定される現象が確認されているのは現在のところ1標本のみであり,さらに同様の現象が他標本や他宿主でも見られるのか更なる検証を実施する.当年度採集の新鮮標本が得られた場合には,急速凍結・凍結置換固定法の適用を検討し,より精細な構造を明らかにすることを目指す.宿主への侵入後の活動期を明らかとするため,宿主の変形菌との共培養条件の更なる検討と生活環の各ステージにおける観察を実施し,さらに各種染色法やイメージングによる宿主細胞内における挙動の解明を目指す.
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