変形菌の細胞内に寄生していると思われるシスト様の菌類の実体を解明するために,多様な変形菌を対象に野外調査および遺伝子解析を実施し,寄生が確認された標本を用いた培養実験,各種観察を行なった.本菌類がシスト様構造を形成した変形菌の胞子は,しばしば胞子壁の最外層のみしか残らず,内部の細胞が分解または消失している様子も観察された.共培養実験により,水中で正常な変形菌の胞子に侵入を試みているような小さな構造が観察され,この菌類は変形菌の胞子期に変形菌細胞に感染可能であることが示唆された.その侵入時の姿は直径がシスト様構造より小さく,シスト様構造に特徴的な構造も見られなかったことから,変形菌の細胞内あるいは細胞外で本菌類はシスト期を脱し細胞を分裂させ,より小型となった生活環ステージにおいて新たな宿主に感染する可能性が考えられた.しかし観察数は少なく,この菌類の感染様式についてさらなる調査研究が必要である.変形菌細胞内での増殖の可視化を試みたが,目的とする構造は認識できなかった.これまで本菌類の寄生は,好雪性のルリホコリ属の変形菌でのみ知られていたが,本研究でさらに広範な調査を行なった結果,さらに2属が新たな宿主として追加された.また宿主と確認された変形菌はすべて好雪性変形菌であり,夏や秋に見られる変形菌からは本菌類は検出されなかった.したがって本菌類は,根雪の融雪下のような水分の多い低温環境を好む生態をもち,水中で変形菌に感染する可能性が示唆された.
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