研究課題/領域番号 |
19K06802
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
田中 和明 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (60431433)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 菌類 / 種分類 / 隠蔽種 / 分類体系 / 生物多様性 / 固有種 |
研究実績の概要 |
菌類の種数は150万種と見積もられているが、これまでに全世界で約10万種程度しか見いだされていない。日本からは約1万2千種が報告されているが、多数の未記載種が存在することは間違いなく、日本産菌類の種構成を正しく理解するために、菌類分類学が果たすべき役割はまだ大きい。しかし実際には、単一種と考えられていた菌群から、複数の隠蔽種が見つかる事例があり、正確な種同定は容易ではない。 日本産菌類の種構成を解明するためには、従前の種同定に用いられてきた「前提」を根本的に見直す必要があると考えられる。その前提とは、同属の木本植物に寄生するある属の菌種は同一種 (普遍種) であるという考え (前提1) と、日本産タケ類寄生菌は独自の種 (固有種) で構成されているという考え (前提2) である。 前提1ではブナ類寄生菌を対象とした。例えば日本産ブナ属の寄生菌を種同定する際には、先行する欧米の研究成果を基に検討され、よほど顕著な形態的差異が認められない限り、欧米産の菌種と同種であると判断されている例が多く見られる。しかしこの誤った前提のもとに、日本産菌類の多様性は過小評価されており、真の菌類相を把握できていない可能性が高い。前提2ではタケ類寄生菌を対象とした。本菌群は前提1とは対照的に、日本で独自に研究されてきた菌群であり、以来日本からしか知られていない固有種と認識されている。しかし、純粋培養株が得られておらず、それに伴って塩基配列データも不明である種が大半を占めることから、その実体は不明である。 菌類種同定に関する従前の前提を再検討し、菌類の普遍性と固有性を検証することで、日本における菌類種構成の実体解明を試み、これまでの予想以上にその多様性が高いことを明らかにする目的で本研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、研究対象であるブナ類およびタケ類の寄生菌を採集調査し、約300菌株の試料をあらたに得た。それらのうち約70菌株からDNAを抽出し、28S nrDNAの塩基配列を取得することで、基本的な系統情報の把握を試みた。調査地点とした東北および中国・四国地方の、両方に見られる広域分布種がいる一方で、限定的に生息する菌種もみられ、その種多様性がうかがえた。さらに、これまでの研究で得られていたブナ寄生菌の380菌株とタケ類寄生菌の580菌株について、ITS nrDNA, RPB2, TFE1αなどの塩基配列を取得し、普遍性および固有性の検証に必要な分子系統解析を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、ターゲットとする菌群を選定する。それらについて28S rDNA 以外の配列情報を取得し、海外より報告されている種との塩基配列ベースの比較を進める。さらに、形態形質を精査することで、微小な形態形質がもつ系統的有用性について評価するとともに、日本産菌類の種多様性を検討する。
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