研究実績の概要 |
菌類の種数は150万種と推定されているが、これまでに全世界で約10万種程度しか見いだされていない。日本にも多数の未記載種が存在することは間違いないが、単一種と考えられていた菌群から複数の隠蔽種が見つかる事例も多く、正確な種同定は容易ではない。日本産菌類の種構成を解明するためには、従前の種同定に用いられてきた2つの「前提」を根本的に見直す必要があると考えられる。それは、特に明確な根拠は無いものの「同属の木本植物に寄生するある属の菌種は同一種 (普遍種) である」という認識(前提1)と、「タケ類寄生菌は、日本からしか知られていない固有種である」というと認識 (前提2)である。前提1では主にブナ属およびカバノキ属の寄生菌類を、前提2ではササ・タケ類上の菌類を対象とし、それらの分類学的再検討を行い普遍性と固有性を検証することで、日本における菌類種構成の実体解明を試みた。 最終年度は、採集調査により約50菌株を分離・培養するとともに、選定した対象菌群について、複数の遺伝子領域(ITS, LSU nrDNA, rpb2, tef1, act, tub2)に基づいた分子系統解析と形態観察を進めた。その結果、特定の木本植物属に寄生し広く分布する普遍種が見出された一方で、日本産菌類では固有種と思われる独自の種が多数存在することも示唆された。タケ類寄生菌では、日本と東南アジアにおいて普遍的に見出される共通の種が多く見られたことから、日本産菌類の固有性は部分的に否定されたものの、固有種と思われる菌類の割合が高いことも示された。 以上を含め、研究期間を通じて約620の純粋培養株を取得し、有用代謝産物の探査源として整備・利用した。また、その分類学的検討を進め、1新目・10新種(8新組合せを含む)の菌を命名・記載することで、日本産菌類の多様性の一端について明らかにした。
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