研究課題
日本におけるシダ植物の異質四倍体種システム(異質四倍体とその推定祖先二倍体の3種が全て日本に現存するトリオ)を拡張するため、日本産イノデ属イノデ亜属、ミヤマワラビ属、ノキシノブ属、カナワラビ属を対象に解析を行った。その結果、6例の新規のトリオの分子系統学的検証を行った:①アヅミイノデ=カラクサイノデ(♀)×サカゲイノデ(♂),②ツヤナシ/イワシロイノデ=トヨグチイノデ(♀)×サカゲイノデ(♂),③クロノキシノブ=ノキシノブ(♀)×ナガオノキシノブ(♂),④イシガキウラボシ=コウラボシ(♀)×ホテイシダ(♂),⑤コゲジゲジシダ=オオゲジゲジシダ(♀)×ホウライゲジゲジシダ(♀),⑥ナンゴクナライシダ=ホソバナライシダ(♀)×ヒロハナライシダ(♂)である。⑤のケースについては新種記載を含む学名の整理も行った。得られたトリオに基づき,異質倍数体種と親種の間のニッチ分化のパターンについて解析を行った。上記の③~⑥の例については両親種のニッチ分化が明確であり、③を除き一方は冷温帯に分布する夏緑性種、もう一方は暖温帯の常緑性種であった。一方、①・②を含むイノデ属は傾向が異なり、夏緑性種群内での網状進化の事例であった。④については、ニッチモデリングによってニッチ分化のパターンを詳細に検討した。コウラボシとホテイシダは大きくニッチが異なり、現状の分布では交雑の機会はほとんど無い。最終氷期最大期(約2万年前)での分布の推測を行った結果、冷温帯性のホテイシダは、本州・四国・九州の低標高域に生育したと推定された。日本列島における異質4倍体種の形成について、第四紀における気候変動に伴う分布変遷が交雑の機会を与えた可能性が示唆した点は大きな意義がある。
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Acta Phytotaxonomica et Geobotanica
巻: 72 ページ: 205-226
10.18942/apg.202102