研究課題/領域番号 |
19K06805
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石川 直子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (20771322)
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研究分担者 |
阪口 翔太 京都大学, 地球環境学堂, 助教 (50726809)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 葉 / 環境ストレス / 進化 |
研究実績の概要 |
植物の葉の大きさは、生育地の長期的な環境に応じて最適な大きさに進化する一方、乾燥や傷害などの短期的な環境ストレスに随時応答して可塑的に調整される。この表現型の可塑性は、変動が大きい環境下では可塑性の幅が広がり、逆に安定した環境下ではその幅が狭まるように選択されることが知られている。 本研究では、シカの生育密度が高い地域で進化した矮化オオバコの小さな葉に注目し、(1)葉形態の進化の実態と、(2)それに伴う表現型の可塑性の変化に関わる遺伝子群の推定を行うことで、葉の形態進化の分子機構の一端を解明することを目指す。 平成31年度は、シカの生育密度が高い場所として奈良公園と、その近隣のシカの生息密度が低い場所において自生地調査を行うと共に、それらの場所に生育するオオバコにおける遺伝形質の違いを明らかにするための栽培実験を行なった。その結果、奈良公園のオオバコは、シカの生息密度が低い場所のオオバコと比較して顕著に葉身面積が小さくて葉柄が短く、さらに葉と花茎が強く地面に倒伏する性質を持つこと、そしてそれらの差は統計的にも有意であることが明らかになった。また奈良公園のオオバコにおける葉の倒伏は、シカの生育密度が高い地域に特徴的な進化形質の一つであり、さらに葉と地面の角度制御には光や重力など複数の環境因子が関わる可能性がある。そのため葉形態の可塑性の進化を考える上で、葉の倒伏形態はサイズの小型化と並んで興味深い形質であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成31年度は、葉の形態形質の測定と自生地調査を概ね計画通り行なった。ただし自生地調査は設置型データロガーの不具合や、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のための研究活動の自粛の影響もあり、一部、予定していたデータ収集が実行できていない。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究により、シカの生育密度が高い地域(奈良公園)のオオバコが、遺伝形質として顕著な葉の小型化および倒伏形態を示すことが確認できた。今後は(矮化オオバコの自生地に特徴的な環境ストレスであると考えられる)乾燥や傷害などのストレスが、奈良公園とその近隣のシカの生息密度が低い場所のオオバコの葉形成に、どのような影響を与えるかを明らかにする。またそれらストレスが、葉発生に関わる遺伝子発現に与える影響の違いについても解析を行う。
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