研究課題/領域番号 |
19K06806
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
神谷 充伸 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (00281139)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 同形世代交代 / 生理的分化 / 適応進化 / 生殖戦略 / 世代間競争 |
研究実績の概要 |
2019年6~10月に神奈川県城ヶ島の北側と南側でイボツノマタを調査したところ、いずれの採集月でも北側では配偶体が、南側では胞子体が優占していた。乾重量は南側のみ配偶体の方が有意に小さく、水分含有量は北側のみ配偶体の方が有意に高かった。北側では干出した個体が多かったことから、干出しやすい場所では水分含有量の高さが配偶体に有利に働いている可能性がある。一方、南側において胞子体が優占した要因は現時点では特定できなかった。2019年5月に神奈川県真鶴の2ケ所でイボツノマタとツノマタを調査したところ、イボツノマタの配偶体は全体の79~91%だったのに対し、ツノマタの配偶体は33~39%と大きく異なっていた。イボツノマタの全長は世代間で有意差が見られなかったが、成熟率は胞子体の方が55~70%高かった。一方、ツノマタは胞子体の方が有意に大きかったが、成熟率はどちらの世代もほぼ100%だった。種によって各世代の成長・成熟に適した環境は異なり、それが世代比の違いに反映している可能性がある。ツノマタ藻体の表面にはしばしば無節サンゴモ類が着生し、藻体内部には糸状の内生緑藻が散見されたが、世代間での着生・内生量には特に違いは見られなかった。植食性動物についても希に小型の巻貝が藻体に付着していることはあったが、目立った摂食痕は見られなかった。 紅藻類の繁殖戦略と比較するために、同形世代交代を行う褐藻アミジグサの世代比を千葉県館山、安房小湊、神奈川県真鶴、静岡県下田で調査したところ、いずれの地点においても成熟個体のほとんどが胞子体であることが明らかになった。生活環が正常にまわっていない可能性が考えられたため、各地点から採集した胞子体を培養したところ、放出された四分胞子から雌雄配偶体が発生した。このことから、野外で成熟した配偶体が見られないのは、配偶体が成長・成熟しにくい要因があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで同所的に生育する複数種を対象に世代比を比較した研究例はほとんどなく、種によって世代比が大きく異なるという極めて貴重なデータが得られた。藻体サイズ、成熟率、水分含有量については詳細なデータが得られたが、各生育場所における環境データの測定は、測定項目を含め検討中である。生理実験のためにツノマタ類の胞子を培養し、配偶体と胞子体の培養株は確立した。アミジグサはレゾルシノール試験が適用できないが、成熟すれば世代を識別できるため、未成熟個体を培養して成熟させることで世代比を調査しようと試みたが、全個体の成熟を一斉に誘導するのは困難で、まだ十分な結果は得られていない。遺伝子解析については、アミジグサの培養個体を対象に配偶体と胞子体を識別できる分子マーカーを探索中である。具体的には、160個のRAPDプライマー(長さ10bp)を設計し、このプライマーを1つずつ使ってPCRで遺伝子増幅を行い、性特異的なサイトを検出する。現在までに、雄性配偶体に特異的なバンドが4つ、雌性配偶体に特異的なバンドが9つ検出されている。
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今後の研究の推進方策 |
ツノマタとイボツノマタが同所的に生育する集団を探索し、世代比の偏りがどのような生育環境でより顕著化するのかを特定する。また、藻体の物理的特性を世代間で比較することにより、世代比の偏りとの関連性を明らかにする。スギノリ科のカイノリやスギノリについては、これまでほとんど生態調査が行われていないため、ツノマタ類と同じ調査地点で採集し、レゾルシノール試験を用いて世代比を調査する予定である。アミジグサについては、世代を識別できる分子マーカーが確立次第、天然の未成熟個体の世代判定に利用可能か検証する。生育環境、形態、出現時期、生理特性などの相違点について、配偶体が優占する種と胞子体が優占する種で比較することにより、同形世代交代の繁殖戦略を探る手がかりがつかめるものと期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた試薬の納入に時間がかかることが年度末になって分かり、次年度に購入することとしたため。
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