研究課題/領域番号 |
19K06807
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
上井 進也 神戸大学, 内海域環境教育研究センター, 教授 (00437500)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 季節集団 / 光周性 / 交雑個体 / 室内培養 |
研究実績の概要 |
春成熟個体については、先行研究により成熟誘導にかかわる光周性が報告されている。一方、報告されている臨界日長(1日14時間以上の明期)では冬成熟個体の成熟は説明できない。また、2つの季節集団間の交雑個体がどのような光周性を示すのかについても不明である。本年度は、野外採取、あるいは研究室での交配により確立された培養株を用いて、成熟誘導に関わる光周性と遺伝的所属の関連性について検討を行った。 遺伝的所属については、マイクロサテライト8マーカーについて遺伝子型の決定を行い、STRUCTURE解析における所属確率を推定した。所属確率≧0.9を基準としたときに、遺伝的に冬集団に属する1株(野外採取)、春集団に属する1株(室内交配由来)、季節集団間の交雑株6株(いずれのグループにも所属確率<0.9;室内交配2系統4株、野外採取1系統2株)について、光周性の確認を行なった。春集団に属する1株については、8時間では全く成熟せず、8時間明期から14時間明期以上に移動させる長日処理によって、移動後3週間から一ヶ月で成熟することが確認された(n=6)。12時間明期条件下では二ヶ月以上かかって野外で見られるものよりかなり小型なリセプタクルを形成した(n=5)。11時間、および10時間明期条件下では成熟が確認されなかった(n=4)。一方で、遺伝的に冬集団とみなせる1株と、交雑株6株については、成熟に長日処理を必要とせず、8時間明期条件下で成熟が確認された。 遺伝的に冬成熟集団、および春成熟集団に所属する株の光周性については、事前に天然集団から確立した株で行なった結果と矛盾しない。今回、季節集団間の交雑株6株について、冬集団と同様、光周性を示さないことが確認できた。しかしながら交雑株でありながら8時間明期では未成熟のままの株もあるため、使用する株を増やしてデータを蓄積する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
由来上も、遺伝的にも冬成熟あるいは、春成熟集団と判断できる培養株、および2つの季節集団間の交雑株についての成熟に関わる光周性の解明は、当初の計画以上に進展している。とくに交雑株については、野外採取により入手した系統を加えると3系統で結果を得ている。室内交雑により得られた2系統4株については、雌雄の季節性を入れ替えた2系統について、明確な光周性を示さないことを確認することができており、交雑個体の成熟特性に関しての理解が大きく進んだと考えている。また、未成熟個体の一部(枝先)から確立した株ではなく、実験室内での交配により得られた完全室内培養の株で光周性の確認が進んでいる。この点からも光周性に関する実験については予定よりも進展していると考えている。 一方で、冬成熟集団の野外における成熟時期に新型コロナウイルス感染症が発生した関係で、冬成熟集団の株の確立、および幼胚の生育条件の検討については、進展させることができなかった。 このため、全体としては概ね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
それぞれの季節集団のもつ光周性については、未だ確認できていない株もあり、データの蓄積が必要であると考えている。交雑株(1株)、春成熟株(3株)については、すでに保持している株について確認を続ける。冬成熟個体については、追加の株の確立が必要である。野外採取が難しい状況が続くことが予想されるため、今後の課題といえる。 また、幼胚の成長適温についての解析を進める計画であるが、やはり野外採取の難しさが課題となっている。培養株から受精卵をとる方向で実験をすすめているが、培養下でも野外に比べても遜色のないサイズのリセプタクルが形成されるものの、受精率が低くなり、得られる受精卵の数が減少する傾向がある。原因は不明であるが、遺伝的な組み合わせは関係無いようであるため、交配の期間やタイミングの問題である可能性が高い。今後は雌雄を一定期間同じ容器で培養するなど、雌雄配偶子の接触の機会を増やすとともに、震盪培養下で交配を行うなどして受精率を上げることを考えている。今年度前半で培養下での受精卵採取法の改善を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2月後半に予定していたサンプリングを、コロナウイルス感染症対策のため中止したことが原因で次年度使用が生じた。今後、サンプリングを実施できるかどうかは不透明であるが、来シーズンのサンプリング費用として使用する予定である。
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