最終年度は尾鰭における側線系(特に表在感丘)の多様性を観察した.スズキ系魚類(Percomorphs)では,尾鰭の鰭膜において,列状に並んだ表在感丘が3列(尾鰭の上葉,中央および下葉にそれぞれ1列)ある状態が普遍的にみられ,この状態はスズキ系魚類以外においてもみられる. 研究期間全体に渡って、スズキ系魚類においてひろく側線系(感丘の配置およびその神経支配)の観察を進めると共に,側線系に派生的特徴が認められるグループについては詳細な知見を得た,多数の表在感丘からなる派生的な側線系をもつハゼ亜目,テンジクダイ科およびコモリウオ科にも注目した. 観察したスズキ系魚類のほとんどでは,感丘数こそ異なるものの,概ね同様な表在感丘の配置がみられた.各感丘要素は特定の側線神経小枝で支配されるので,配置の保守性は個体発生上の共通性ないしは制約によるものと推察される.頭部や体側に多数の表在感丘をもつことで特徴付けられるテンジクダイ科では,他のスズキ系にみられる感丘要素に加えて,本科でのみ観察される側線神経小枝とそれに支配される表在感丘が認められた.追加的な表在感丘要素が現れることで多数の表在感丘が獲得されたと考えられる.このような例はコモリウオ科やタカサゴイシモチ科にも収斂的に生じていた. 側線系の形態的複雑性の差が,体サイズに起因する例が認められた.小さい体サイズによって特徴付けられるクダリボウズギスモドキ属を精査し,本属が非幼形的なヌメリテンジクダイ属に近縁と明らかにしたうえで,クダリボウズギスモドキ属のシンプルな側線系はヌメリテンジクダイ属魚類の幼魚時における未発達な側線系ときわめて類似していることを示した.すなわちクダリボウズギスモドキ属では,体が幼形化に伴って側線系の複雑性も未発達な方向へシフトしたと考えられる.
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