本研究では,単細胞性藻類の中でも,淡水から汽水・海氷に広く分布するミクログレナ属を対象に,藻類の生息可能環境や至適環境の実態とその進化過程の解明を目指した。 2021年度には入手したミクログレナ属藻類7種の培養株について,淡水・汽水(1/5海水相当)・海水を模した培地中の,それぞれ15℃,20℃における増殖比較を進めた。期間終了時点では培地の色による定性的判断まで行い,固定試料を保存した。 その結果,淡水由来の 6 株中 4 株は,いずれの温度でも淡水でのみ増殖し,汽水においては増殖が認められなかった。また 1 株は,いずれの温度でも淡水で最もよく増殖したが,汽水での増殖も認められ,海水では増殖しなかった。以上の5株においては,15℃よりも20℃でより速く増殖した。淡水産の残り 1 株は,15℃では海水において最もよく増殖し,次いで汽水でよく増殖したが,20℃においては汽水において最もよく増殖し,次いで淡水でやや増殖し,海水においてはほとんど増殖が認められなかった。またこの株は,同じ塩分濃度では20℃よりも15℃でより速く増殖した。海水由来の1株は,汽水・海水において増殖が認められ,特に20℃の海水において良好な増殖を示した。 すなわち,培養株(種)によって至適温度・至適塩分濃度に差があり,また特定の種では至適塩分濃度が培養温度によって変化することが示された。この株は,系統的には海産系統から淡水系統への進化途上にある種と推定され,好冷性の種と近縁であった。 今後,本研究で得られた固定試料を用いた細胞計数を進め,定量的なデータと共に英文論文として発表したい。 また本研究の前提となる分類学的基礎研究として,「国際藻類・菌類・植物命名規約」の改訂に関して,Taxon誌2020年12月号に掲載された修正提案を紹介・解説するミニレビューが日本藻類学会和文誌「藻類」に受理・掲載された。
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