研究課題/領域番号 |
19K06817
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小亀 一弘 北海道大学, 理学研究院, 教授 (80215219)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 褐藻 / COI / 分子系統 / 微小褐藻 / DNAバーコーディング |
研究実績の概要 |
褐藻類には,数cm以下の微小な種が多く存在するが,形態が単純なために同定が難しく,その多様性についての理解は未だ不十分である。本研究は,微小褐藻について,多くの培養株を確立し,DNAバーコーディングにより,その多様性を解明することを目的とする。 令和元年度までに,日本各地の海岸11地点で採取された砂や岩,大型藻,海草の断片を培養し,培養中に出現してきた微小な褐藻類を単離し,168株の培養株を確立していた。そのうち117株について,チトクローム酸化酵素サブユニットI遺伝子(COI)の部分配列を決定していた。令和2年度においても培養株の単離とCOI配列の決定を進め,これまで,18地点から221株を得て,160株について配列情報を得た。それらの配列とDNA Data Bankからダウンロードした140のレファレンス配列をアラインメントし,Neighbour-Joining法を用いて系統樹を作成した。得られた配列は,全て,Ectocarpalesに位置し,46種に分かれた。そのうち,レファレンス配列から種を同定できたものは18種,科または属まで同定できたものは11種,レファレンス配列が存在せず,科も不明であったものが17種であった。異形世代交代を行う種の微小世代であったものは7種であった:Punctaria latifolia,Punctaria plantaginea,Leathesia marina,Asperococcus bullosus,Hydroclathrus stephanosorus,Petalonia fascia,Planosiphon gracilis。レファレンス配列から種を同定できたもののうち,4種が日本新産と考えられた。それらは,Microspongium stilophorae (P. Crouan & H. Crouan) Cormaci & G. Furnari,Ectocarpus fascicularis Harvey,Ectocarpus subulatus Kuetzing,Ectocarpus crouaniorum Thuretであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
培養株の確立については,これまで221株の培養株を確立しているが,令和2年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響で採集活動が大きく制限され,新たな培養株の確立がやや遅れている。分子系統解析・種境界判別・種同定については,これまで160株のCOI配列を決定し,レファレンス配列とともに分子系統解析を行い,46種が認められている。しかし,塩基配列決定ができていない培養株が多く残っている。
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今後の研究の推進方策 |
さらに多く地点から採集されたサンプルから,微小褐藻の培養株を確立し,形態観察を行う。新型コロナウイルス感染拡大の影響で採集活動が大きく制限されているため,採集物を得るために,他の研究者に材料採集を依頼することを検討する。それらの培養株について,COI配列を決定する。PCRでプライマーが合わないために増幅産物が得られないと考えられるものに対しては,新しいPCRプライマーを試みる。これまでと同様に,DNAデータバンクからのシーケンス情報を加えて,分子系統樹を作成し,種境界判別,種同定,種数の把握を行い,微小褐藻の多様性の解明を進める。興味深い系統が得られた場合は,さらに他の遺伝子(ルビスコ大サブユニット遺伝子 rbcL,光化学系Ⅰ複合体サブユニットA遺伝子 psaAなど)も用いて分子系統解析を行う。可能であれば未記載種の記載に努めるとともに,必要があれば,分類体系の検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響により,採集活動が制限され,旅費を使用することができなかったため,次年度使用額が生じた。令和2年度においてまだCOI塩基配列を決定していない培養株(約60株)の塩基配列決定の費用としてR3年度に使用し,R3年度の研究計画に加える形で行う。
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