研究課題/領域番号 |
19K06821
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
町田 龍一郎 筑波大学, 生命環境系(特命教授), 特命教授 (50199725)
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研究分担者 |
増本 三香 北里大学, 一般教育部, 講師 (60458742)
福井 眞生子 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 講師 (90635872)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 昆虫類 / 無翅昆虫類 / 受精 / 卵門 / 卵殻 / 陸上進出 / 進化 / 比較発生学 |
研究実績の概要 |
本研究は、昆虫類6主要系統群の初期卵を詳細に検討することで受精様式の多様性を明らかにし、昆虫類での受精様式の進化的変遷を構築、昆虫類の初期進化を議論するものである。昆虫類の6主要系統群のうち、無翅昆虫類であるカマアシムシ目、トビムシ目、コムシ目、イシノミ目、シミ目の5群が検討対象となる(必要に応じ、確立した受精様式を獲得している有翅昆虫類も対象とする)。研究の実際では、各群について、1)十分な個体数のカルチャーを構築、2)繁殖期に産卵個体をピックアップ、3)受精が起こるだろう場所である受精嚢開口のある輸卵管末端を、卵が通過するタイミングを見計らって産卵個体を瞬時に固定、試料とし、4)組織学的検討を行うことになる。 本年度、カマアシムシ目に関しては、1)のカルチャーは維持できたが、2)の産卵個体の確保に失敗、しかし卵を詳細に検討したところ、卵門のような構造を確認した。トビムシ目に関しては、3月に多数を採集、1)のカルチャー構築を確立、現在、2)の産卵個体の出現を待っているところである。コムシ目に関しては、フィールドである茨城県つくば市の果樹園が台風で荒廃し、1)のカルチャーの構築に失敗した。イシノミ目に関しては、1)のカルチャー構築に成功、2)の5産卵個体を得、3)の処理を行うことができたが、4)で期待される精子の卵内への侵入シーンを確認することはできなかった。シミ目に関しては、数百個体のマダラシミを確保、1)のカルチャーの構築に成功したが、2)の産卵個体はいまだ見出せないでいる。 十分な成果は得られなかったが、上記の失敗は次年度以降の研究計画立案にとって重要な情報である。また、日本動物学会のシンポジウムで昆虫類の受精様式をテーマに招待講演を行った。本研究テーマには直接関連しないが、有翅昆虫類の発生学、系統学に関する論文を3編、軟体動物の受精に関する論文1編を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
「研究実績の概要」で述べたように、具体的な成果は得られなかった。考えられる理由を群毎に記す。 カマアシムシ目に関しては、本目が体長1 mmの飽和湿度を要求する昆虫であることから、唯一カマアシムシ目を飼育できる方法は小さな素焼き製の飼育容器を用いる以外にない。このことから産卵個体に巡り会うのはやはり至難であった。このような中、卵門様構造の確認は思わぬ成果であった。 コムシ目に関しては、この数年、発生学的研究を行ってきたハサミコムシ亜目を材料に供しようと考えていたが、フィールドの環境悪化は如何ともしえなかった。 イシノミ目に関しては、精子の卵内への侵入シーンが確認されなかったが、この原因が産卵個体の固定法あるいは固定のタイミングのミスによるのか、あるいは、1試料から作成した数百枚に及ぶ切片の単なる観察不足によったかは分からない。 シミ目に関しては、マダラシミが35度という飼育温度を要求するために、個体のチェックが不十分になったせいで、産卵個体が見出せなかったという単純な問題によるものと思う。
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今後の研究の推進方策 |
カマアシムシ目に関しては、産卵個体に巡り会えることを期待して、採卵作業を行うことを続けたい。この作業の際には、手元に固定液を満たした小シャーレを置き、産卵個体に巡り会えたら、それを即座に固定液に投入するようにする。このような一見不作為に見える今後ではあるが、カマアシムシ目の卵に卵門様構造を見出せたのは非常に重要である。産卵個体確保にのみ集中するのでなく、卵のTEMなどによる詳細な組織学的検討が功を奏すかもしれない。 コムシ目に関しては、ナガコムシ亜目のウロコナガコムシを材料にしたらと考える。 イシノミ目に関しては、産卵個体の固定に凍結スプレーを用いたが都合よく固定されないことが多かった。そのため、ジエチルエーテル、クロロフォルムなどの一般的な方法で麻酔、その後、固定するなどの方法を採用しようと思う。凍結スプレーは瞬時であるのでタイミングが難しいが、この問題点を一般麻酔はクリアできるかもしれない。また、組織切片の検討の際、雄性前核が確認できなかったわけであるが、雄性前核は極小であるので、よりはっきりと確認できるようなDAPIなどの核特異的蛍光色素で染色、蛍光顕微鏡による検鏡をルーティンで採用することも考える。 シミ目に関しては、産卵行動を行っている雌を机上の小型インキュベーターに移し、絶えず視線を走らすようにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者 増本三香北里大学講師は、次年度に備品購入を予定しており、また、研究代表者の研究室に訪れて電子顕微鏡を使用する頻度が次年度増加する予定で、そのためより多くの旅費が必要となる。これらのことから、本年度の助成金と翌年度に請求した助成金を合わせて使用計画を考えることとした。
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