研究課題/領域番号 |
19K06822
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
朝川 毅守 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (50213682)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Limnoria / ワラジムシ目 / ホスト転換 / 種分化 / 種多様性 |
研究実績の概要 |
前年度までに,全国から採集された海藻に生息するキクイムシのサンプルを用いて,COI領域のシークエンスを行い,系統解析を完了していたが,今年度は同じサンプルを用いて,18S-rDNA領域を用いた核遺伝子による系統解析を行った.ミトコンドリア遺伝子による系統樹と核遺伝子による系統樹の樹形に矛盾はなく,交雑や遺伝子浸透は見られなかった. 遺伝子情報に基づきSpecies Delimitation Analysisを行ったところ,8MOTUが認識された.8MTUのうち,各MOTUの分布をみると,太平洋側では3MOTUが,日本海側では2MOTUが同所的に生息していた.Ecological Niche Modelingを行った結果,生息環境の分化は見られなかった.同所的に生息するMOTUは,異なる海藻をホストとし,住み分けている傾向がみられた.8MOTUのうち,3つはレッソニア科をホストとし,2つがホンダワラ科ホストとし,3つは複数の科の海藻をホストとしていたことから,ホストの住み分けによる系統の分化があったことが示唆された. 各系統の分化要因を明らかにするため,海藻食キクイムシのホスト海藻の種類と,生息海域について,s-DIVAとBBMにより系統樹の祖先分岐点の状態を推測した.その結果ジェネラリストまたはスペシャリストの祖先から,ホスト転換により,3つの系統に分化し,それぞれの系統の中で,海域の違いによる地理的隔離により,さらに2~3種に分化しつつあることがわかった. ホスト転換により大きく分かれた3つの系統は,Limnoria nagataiと,L. furca,そして未記載種に対応し,判別形質の多くは一致するが,脚の爪の突起の数などわずな違いで形態的な区別も可能であることから,後者を新種として記載した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の当初の予定では,系統解析により,海藻食キクイムシの多様性を明らかにし,RNA-seqにより,海藻食キクイムシがどのような消化酵素を発現しているか見る予定であった.しかし,実験材料を大量にサンプリングできる4月から6月に野外採集することが困難であった,夏以降にサンプリングを行ったが,大量の個体数を確保することができず,RNA-seq解析に十分なRNAを得ることができなかった. 代替として,次年度に行う予定であった,系統解析後の,Species Delimitation Analysis.Ecological Niche Modeling,祖先分岐点のホスト海藻の種類と生息海域の推定を先行して行い,ほぼ完了した. このため,今年度は消化酵素のRNA-seq解析に専念できる状況となっており,全体の進行状況としては,やや遅れているか,あるいはおおむね順調という状況である.
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今後の研究の推進方策 |
本課題の計画のうち,系統解析,Species Delimitation Analysis.Ecological Niche Modeling,祖先分岐点のホスト海藻の種類と生息海域の推定については,完了したので,これらの内容をまとめて,原著論文として発表する. 今年度は消化酵素のRNA-seq解析に専念し,実験を行う.対象サンプルが極めて小さいため,解析に十分なRNAを得るために,大量の個体数のサンプル採集が必要であることがわかったので,4月から6月にサンプリングを行い,確保する. 採集したサンプルからRNAの抽出を行い,RNA-seq解析を行う.得られた配列について,多糖類の分解酵素の有無と種類を確認する.比較には,Blastや多糖類の分解酵素のdbCANや,木材食キクイムシの消化酵素のトランスクリプトームデータなどと比較し,海藻食キクイムシが発現している消化酵素の種類を特定する.
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