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2020 年度 実施状況報告書

二型花柱性ボロボロノキ(ボロボロノキ科)の送粉様式と分布拡大過程に関する研究

研究課題

研究課題/領域番号 19K06825
研究機関独立行政法人国立科学博物館

研究代表者

菅原 敬  独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 客員研究員 (10226425)

研究分担者 内貴 章世  琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 准教授 (30393200)
渡邊 謙太  沖縄工業高等専門学校, 技術室, 技術専門職員 (50510111)
研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワードボロボロノキ / 二型花柱性 / 送粉様式 / 花香成分 / 系統地理 / 蛾媒花 / ハナバチ媒花
研究実績の概要

東アジアに分布するボロボロノキ(ボロボロノキ科)は,我々のこれまでの調査で二型花柱性を示す落葉樹であることが確認されている.二型花柱性は送粉昆虫と密接な関わりをもちながら進化してきた繁殖様式である.本種では,送粉を担う送粉昆虫が日本列島で地理的分布域を拡大するなかで変化してきたことが想定された.また,この送粉昆虫の変化は送粉昆虫を誘因する花香成分の変化を伴う変化であったことが想定された.具体的には大陸・琉球列島から九州本島へ分布域を拡大するなかで,本来の夜行性の小型蛾類による送粉から,夜の小型蛾類+昼のハナ蜂類による送粉へと進化が起こったことが推定された.
この仮説を検証するために,東アジアにおける本種の主要な分布域,すなわち台湾や中国大陸,琉球列島,そして九州本島の複数地点を対象にした送粉様式に関する野外調査,花香成分の分析,DNAの遺伝的情報に基づく系統地理学的解析の調査を進めてきた.しかし,昨年3月から続く新型コロナ感染症の影響で,今年度も台湾での野外調査ができず,国内での調査のみに終わってしまった.
これまで送粉様式の調査は分布の北限である九州熊本県北部地域に限られていたが,今年度は九州南部の鹿児島県鹿児島市周辺地域の生育地でも野外調査を行い,併せて花香成分分析のためのサンプリングと遺伝的解析のためのサンプリングを行った.また,コロナ禍で東アジアの生育地へ直接調査に行くことが難しいため,海外の研究者に協力をお願いして,DNAに基づく遺伝的解析のための試料の入手に努めた.その結果,花香成分の分析と遺伝的解析のためのサンプリングについてはおおよその目途がつき,現在実験室内で解析を進めているところである.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

本研究は,ボロボロノキの野外調査に根ざした研究で,開花期に生育地に直接出向いてデータを得ることが大変重要である.これはボロボロノキの花を訪れる送粉昆虫やその送粉様式を探ることに加えて,花香の成分を解析するための花香を採取するためでもある.ところが,今年の3月も昨年同様に国内での新型コロナ感染症の拡がりにより,琉球列島の島々への移動,そして台湾の調査地への移動が制限されるという事態が生じたために,これら地域での調査を計画通りに進めることができなかった.
この新型コロナ感染症の拡がりは,DNAの分子情報に基づく系統地理学的解析のためのサンプリングにも大きく影響した.今回の研究において,ボロボロノキの大陸から琉球列島,そして南西諸島から九州本島への移動・拡大を探るうえで,台湾や大陸に産するの同種集団との比較は必要不可欠である.ところが長引く感染症の影響で,台湾や中国での海外調査を実施することができなかった.海外調査が難しい状況下で,大陸集団の試料を得るために,これら地域の研究者に協力を依頼したり,過去にこれらの地域でサンプリングを行ったことのある研究者に試料の有無を尋ねるなどして,試料の提供をお願いしてきた.これまでいくつかの地域から試料を得ることができたので,これらを加えて今後解析を進めていきたいと考えている.
気候変動も研究の進捗には影響を与えた要素である.ここ数年,春の気温変化が著しく,植物の開花期も年によって大きく変動するため,調査に最適な開花期を予測することが難しくなっている.そのため調査に出かけても,開花がすでに終わっていたり,あるいは未だ開花していないこともあり,調査を効率的に進めることができず研究遅延の要素になってしまった.

今後の研究の推進方策

今後の研究推進方策として,以下のことを考えている.
1)この3月に九州本島南部地域を代表する鹿児島県南部地域集団で採取したボロボロノキの花香について,その成分分析を進め,同地域集団の成分組成が九州の他地域集団の成分組成に類似するのか,それとも琉球列島集団に類似するのかどうかを探る.特に花香成分としてのリモネンとオイゲノールの含有割合に着目している.これらは訪花昆虫の種類とも密接に関連する成分である.
2)分子情報に基づく系統地理学的解析のためのサンプリング試料は,九州から琉球列島の分布域を網羅し,また海外では東アジアのいくつかの地域からの試料も出揃ってきたので,今後はこれらの試料を用いてDNA抽出を進め,有意義な情報が得られる可能性が最も高いMIG-seqをメインにした解析を進めていく.これには,必要に応じて今後もいくつかの地域からのサンプリングを加え,可能なかぎり本種の地理的分布域をカバーできるようような範囲の情報の把握に努める.
3)送粉様式については,これまで九州本島の集団と琉球列島の集団との間で大きな変化が見られることが得られているので,そのデータを公表するための論文を作成し,本種の地理的分布拡大過程のなかで生じた送粉様式の多様化について仮説を提示したい.
4)国内でのコロナ感染症が落ち着き,海外渡航が可能になれば,台湾での野外調査,特に送粉様式についての野外調査をメインに実施する計画である.すでに共同研究の実績のある台湾の研究者と連絡をとっているので,調査はスムーズに進むものと期待している.

次年度使用額が生じた理由

次年度への繰り越し金が発生してしまったが,その最大の理由は昨年同様に今年度も継続して国内で発生したコロナ感染症の影響である.この影響により,3月に予定していた台湾での送粉様式に関する野外調査等が実施できなかった.また,この調査では花香成分の収集や分子情報解析のためのシリカゲルサンプルの採集も同時に行う予定であったが,これらもできなかった.そのため,これらの調査に予定していた旅費等が次年度へ繰り越しになってしまった.予定の野外調査ができなかったために,国内の実験室内での解析も計画通りに進めることが出来ない状況になってしまった.これらに予定していた予算を次年度へ繰り越すことで,有効に活用していきたいと考えている.
次年度では,この繰り越し金を活用して,台湾での野外調査を実施するとともに,花香成分の解析や分子情報MIG-seqをメインにした系統地理学的解析を進めていく計画である.すでに述べたように分子情報解析のためのサンプルは,ほぼ出揃ってきているので,今年度は着実に進めていくことができると考えている.

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] Radiation history of Asian Asarum (sect. Heterotropa, Aristolochiaceae) resolved using a phylogenomic approach based on double-digested RAD-seq data2020

    • 著者名/発表者名
      Okuyama Yudai、Goto Nana、Nagano Atsushi J、Yasugi Masaki、Kokubugata Goro、Kudoh Hiroshi、Qi Zhechen、Ito Takuro、Kakishima Satoshi、Sugawara Takashi
    • 雑誌名

      Annals of Botany

      巻: 126 ページ: 245~260

    • DOI

      10.1093/aob/mcaa072

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] A New Form of Boschniakia rossica (Orobancaceae) from the Southern Alps, Japan2020

    • 著者名/発表者名
      Sugawara Takashi and Takeshige Satoshi
    • 雑誌名

      The Journal of Japanese Botany

      巻: 95 ページ: 158~161

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 小笠原の植物の進化を垣間見る~性表現の多様性をめぐって2020

    • 著者名/発表者名
      菅原 敬
    • 雑誌名

      東京都立大学小笠原研究年報

      巻: 43 ページ: 103~111

    • 査読あり
  • [図書] 世界自然遺産 小笠原諸島2021

    • 著者名/発表者名
      東京都立大学小笠原研究委員会
    • 総ページ数
      196
    • 出版者
      朝倉書店
    • ISBN
      978-4-254-18058-9

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公開日: 2021-12-27  

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