研究課題/領域番号 |
19K06828
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
坂本 香織 金沢工業大学, 基礎教育部, 准教授 (10367443)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Nostoc commune / anhydrobiosis(無水生活様式) / 細胞外マトリクス / 抗酸化タンパク質 / 水ストレスタンパク質 (WspA) |
研究実績の概要 |
大腸菌Escherichia coliで発現させる陸棲シアノバクテリアNostoc communeの細胞外マトリクスタンパク質をコードするDNAのうち、既にクローニングを完了させていた遺伝子型A株 (KU002)の2種類の水ストレスタンパク質(WspA)を合成させる発現コンストラクトを作製し、大腸菌BL21 DE3株で発現を誘導した。 2種類のWspAタンパク質とも大腸菌の封入体に蓄積が見られたため、封入体画分をSDS-PAGEに供してタンパク質を分離させ、WspAタンパク質を含む画分ををウサギに接種して抗WspA抗体を得た。それぞれの抗体を用いて遺伝子型A, B, C, Dのコロニーから調製した細胞外マトリクス画分のWestern blot解析を行った。その結果、両抗体において遺伝子型B, C, DのWspAとのcrossreactivityが見られるとともに、各遺伝子型に固有のWspAタンパク質が検出され、遺伝子クローニングにより明らかにしたwspAの遺伝子型による多様性が裏付けられた。 また前年度に作製したNpun_R3258ホモログ(部分長)とNpun_R5799ホモログ(完全長)、およびそれぞれのDNAの5’末端にpelB リーダー配列を付加した計4種類の発現コンストラクトを大腸菌BL21 DE3株への形質転換し、発現を誘導した。この結果、Npun_R3258ホモログでは目的タンパク質が可溶性画分に蓄積したのに対し、Npun_R5799ホモログでは目的タンパク質の著しい蓄積が見られなかった。このため、pelBリーダー配列を付加したNpun_R5799ホモログの発現誘導を試みたところ、目的タンパク質が封入体画分に蓄積した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
N. commune細胞外マトリクスに最も多量に存在するWspAについて、遺伝子型Aの2種類のWspAの抗体を作製することができた。また、2種類のDpsタンパク質のうちの1つ (Npun_R3258ホモログ)を可溶性タンパク質として大量生産することができたことにより、Npun_R3258ホモログの構造や機能の解析が可能となった。既に遺伝子クローニングを終えているスーパーオキシドディスムターゼ (SOD)やカタラーゼの構造や機能については、SODはN. commune (Ma et al., 2012)で、カタラーゼは同じNostoc属シアノバクテリアであるN. punctiforme (Hudek et al., 2017)で既に明らかにされているため、発現コンストラクトの作製は当面の間は保留し、次項を優先させる。 エレクトロポレーションを用いたN. communeの形質転換系の開発について、培養細胞であるKU002株を研究協力者より分譲を受け、培養を開始した。液体培養した細胞を単細胞化してエレクトロポレーションに用い、抗生物質耐性遺伝子や蛍光タンパク質遺伝子を含むプラスミドを導入するための条件を今後検討する。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に作製したN. communeの遺伝子型Aに由来するKU002株のWspAに対する抗WspA抗体を用いて、N. communeコロニーの細胞外マトリクスにおいてWspAと相互作用するタンパク質や物質を免疫学的手法により見出すことが可能になった。また、二種類の抗WspA抗体の一つが遺伝子型B、C、DのWspAとも強く反応したことから、同様の手法を異なる遺伝子型のコロニーにも適用することができる。 一方、N. commune培養株の細胞培養には、BG11培地ベースの液体培養が用いられている。このため、自然界では陸棲のN. communeとは生育環境が全く異なり、それ故に培養細胞の細胞外マトリクスの構成が本来の細胞外マトリクスの構成から著しく変化している可能性が考えられる。前年度に作製した抗WspA抗体を用いて各培養株の細胞外マトリクス画分を調べることにより、WspAタンパク質を指標とした細胞外マトリクス成分の可視化が可能となった。また、wspA遺伝子をもつ他のNostoc属シアノバクテリアにおけるWspAの生産について、N. communeの抗WspA抗体を用いたより詳細な解析を進めることができるようになった。 N. commune培養細胞における細胞外マトリクスの構築が自然界における同種コロニーと大きく異なる場合、N. communeの形質転換手法を確立したとしても、細胞外マトリクスタンパク質の遺伝子破壊株の表現型が変化しない可能性が高い。このような場合に備え、培養細胞を増殖させた後に水分を徐々に損失するような条件下に曝し、細胞外マトリクスタンパク質をコードする遺伝子の発現の変化を調べる必要があると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に購入した設備備品の機種変更およびキャンペーン価格での購入により、支出額が減じられて次年度使用額が生じた。そのため当該年度の計画を変更し、解析対象のタンパク質の抗体作製を外注依頼するともに免疫学的手法を用いた実験の試薬や消耗品を購入することにより当該年度の使用額を増やしたが、それだけでは予算を使いきれなかった。
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