研究実績の概要 |
南北に長い日本列島は、その沿岸に親潮、黒潮、対馬海流など複数の寒流・暖流の影響を受けて多様な海藻相を形成しており、その構成種の相異から大きく5つの海藻相区に区分されてきた。しかし、日本列島から約1,000km南方に離れた小笠原諸島は、これらの海流を共有しないために日本列島とは大きく異なる海藻相が形成されていることが予想される。令和5年度に行った研究では、父島で春季にのみ潮間帯に出現し「はばのり」と呼ばれて食用とされている褐藻が、遺伝子解析の結果ハバノリ属のキヌハバノリと判明し、日本列島に普通にみられるハバノリやセイヨウハバノリが分布していないことが判明した。また、前年度に日本新産種として報告した褐藻オウギジガミグサとは別にもう一種、ジガミグサ属の未記載種が存在することが遺伝子解析から示された。 これらの成果に加えて、これまでの研究期間に小笠原諸島の父島沖40m以深の海底と房総半島の大原沖20m以深の海底でそれぞれドレッジとエビ網を利用して行った調査の結果、新種、新産種を含め、40種以上の深所性海藻が得られた。具体的には、大原沖のアオサ藻のフジノハヅタ、褐藻イチメガサ、オオノアナメ、紅藻カクレスジ、ハスジギヌなどに対し、父島沖にはアオサ藻のボニンアオノリ、チクビミル、サキボソシオグサ、褐藻タマクシゲ、ラホツミドロ、ウミタンポポ、紅藻スジアリグサなどが生育しているが、両者に共通する深所性海藻種はほぼみられず、光合成がかろうじて可能な量の光が到達する中有光層においても小笠原諸島の海藻相の特異性が示唆された。浅所域と深所域の結果を合わせ、小笠原を従来の日本列島沿岸の5つの海藻相区には含められない第6の海藻相区として認識することができるものと考える。
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