研究課題
本研究では、シカの増加がヒグマの生態に与える正および負の影響を明らかにし、両種の種間相互作用を解明することを目的とする。知床半島においてシカ・ヒグマの生息密度が異なる3地域(知床岬・ルシャ地区・幌別岩尾別地区)を対象として、ヒグマの糞・体毛を回収し、DNAバーコーディング法、体毛の安定同位体比解析などを用いてシカの生息密度の違いがヒグマの食性・栄養状態に与える影響を調べる。2019年度は、1)各地域におけるシカとヒグマの生息密度を比較すること、2)各地域におけるシカの子連れ率を比較すること、3)各地域より糞・体毛をサンプリングすることを目的として実施した。1)および2)では、野外に設置した自動撮影装置により、シカ・ヒグマの撮影頻度を算出した。この結果、ルシャ地区におけるヒグマ生息数は、他の2地区に比べ2倍近いことが明らかになった。一方シカでは差がより顕著であり、ルシャ地区におけるシカ生息数は、他の2地区に比べ約4倍であることが分かった。一方、各地域におけるメスシカの子連れ率(7月後半~9月後半)は、ルシャ地区で平均30%、知床岬で約14%、幌別岩尾別地区で約23%と、予想に反してルシャ地区の方が高い傾向が認められた。ルシャ地区で6・7月にルシャ地区で収集したヒグマの糞の内容物を解析したところ、シカ残滓の出現頻度は約6%であった。これらのことから、ルシャ地区ではヒグマが高い頻度でシカ新生子を捕食しているものと考えられるが、これによりメスジカの子連れ率が低下しているかどうかは今後データを増やして検証する必要があると考えられる。3)については各地域における糞および体毛の採取を実施した。得られた試料は来年度のものと合わせ、解析を行っていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
予定通り研究を実施した。特に自動撮影カメラを用いて各調査地のヒグマ生息数・エゾシカ生息数・メスジカの子連れ率を比較できたことにより、研究を進める上で基盤となる知見を得ることができたのは大きな進歩であるといえる。糞や毛についてはサンプリングを実施し、DNAバーコーディング法・安定同位体解析に供試する準備を概ね完了することができた。来年度に収集予定の試料と合わせ、解析を行う準備が整っている。これらを総合し、研究は概ね順調に進展しているものと判断した。
次年度は、1年度と同じフィールドワークを継続・発展させるとともに、2年間で収集した糞・体毛サンプルを用いたDNAバーコーディング、安定同位体比解析を進めて行く計画である。
次世代シーケンサを用いたDNAバーコーディング解析と、体毛の安定同位体比解析について、試料数などを考慮して、来年度合わせて実施する方が効率的・低コストであると判断したことから、これらに使用する予定だった額を来年度へと持ち越すこととした。
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