研究課題
本研究では、シカの増加がヒグマの生態に与える正および負の影響を明らかにし、両種の種間相互作用を解明することを目的とする。知床半島においてシカ・ヒグマの生息密度が異なる地域(知床岬・ルシャ地区)を対象として、ヒグマの糞・体毛を回収し、DNAバーコーディング法、体毛の安定同位体比解析などを用いてシカの生息密度の違いがヒグマの食性・栄養状態に与える影響を調べる。2021年度は、1)両地域よりヒグマの糞・体毛、およびシカ糞を収集すること、2)収集したヒグマ糞を分析しシカの利用頻度を地域間で比較すること、3)ヒグマの糞およびシカ糞を用いたDNAバーコーデイング法を行うこと、4)ヒグマの体毛を用いた安定同位体比分析により、シカの利用度の地域差を明らかにすること、を目的とした。1)および2)では、知床岬・ルシャ地区において、シカの出産時期である6月にそれぞれ104個、112個のヒグマ糞を収集した。糞内容物にシカが含まれる割合について、2019年および2020年に収集した糞を含め解析した結果、3.7%、11.0%と有意差が認められた。これらのことから、ルシャ地区に生息するヒグマは知床岬に生息するヒグマに比べ、高頻度でシカ新生子を捕食している可能性が示唆された。3)については、収集したヒグマ糞およびシカ糞よりDNAを抽出し、trnLを対象領域としたDNAバーコーディング法を実施した。この結果、知床岬に生息するヒグマはルシャ地区に生息するヒグマに比べ、セリ科草本など、クマもシカも好むとされる草本類をより高頻度で利用している傾向が認められた。4)においては、ルシャ地区と知床岬で採取された体毛を用いた安定同位体比解析を実施した。両地区とも海産動物を多く利用している点で共通していたが、シカを含む陸棲哺乳類の利用について有意な差は認められなかった。
3: やや遅れている
新型コロナウイルスの影響で、2019年からの3年間の間、充分なサンプリングを実施できなかった。特に、DNAバーコーディングに供試する試料は2022年も継続して収集する必要がある。これらを総合し、研究はやや遅れていると判断した。
2022年度は、2021度と同じフィールドワークを継続・発展させるとともに、得られた成果を学術論文等で発表していく。
新型コロナウイルスの影響で、野外でのサンプリングを行う機会が限られたため、DNAバーコーディング解析に供試するサンプル数が、当初の予定より限られた。このため、2022年度も試料を継続して収集し、解析を行う必要があると考え、使用する予定額を来年度へと持ち越すこととした。
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Ecosphere
巻: - ページ: -
Ecology and Evolution
巻: 11 ページ: 5204-5219
10.1002/ece3.7410