研究課題/領域番号 |
19K06836
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
土田 浩治 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (00252122)
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研究分担者 |
岡本 朋子 岐阜大学, 応用生物科学部, 助教 (50588150)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 原始的真社会性 / ポリシング / CHC / 産卵制御 |
研究実績の概要 |
本研究は、ワーカー産卵抑制のシグナルとしての体表炭化水素の進化を明らかにするために、原始的な真社会性昆虫であるフタモンアシナガバチを材料に、その繁殖能力とCHCとの間の関連を実験的に明らかにすることを目的としている。 本年度は、これまでの実験のデータを取りまとめ、特に、卵表面上のCHCのプロフィールを比較した。その結果、ワーカー卵と女王卵には明らかなプロフィールの有意な違いが認められ(NMDSとPERMANOVA)、ワーカー卵と女王卵にはCHCプロフィールに違いがある事を明らかにした。また、女王が消失した後のワーカー卵のプロフィールは女王消失前のワーカー卵のプロフィールと違いが認められず、女王の存在がワーカーのCHCに影響する可能性は低いことが示唆された。さらに、女王卵とワーカー卵の間で顕著に成分量が異なる物質を検索した結果、nC27が女王卵では多く、ワーカー卵では少ないことが明らかとなった。以上の結果は、CHCは女王の存在の有無に関わらず、ワーカーと女王間では明瞭に異なるが、日令では変化しないことを示唆していた。 幼若ホルモン抑制物質であるプレコセン、幼若ホルモン様物質であるメソプレンをワーカーに処理したところ、メソプレン処理の個体の方が黄体が発達しており、卵巣の発達を促進することが明らかとなった。2つの処理区とコントロール区との間には行動の差が処理後2週間後には検出されたが、2つの処理区での違いは不明瞭であった。成虫のCHCの違いは、メソプレン処理区とコントロール区の間には有意な差は認められなかったが、女王とメソプレン処理区には明瞭な差が認められた。同様に、プレコセン処理区とコントロール区の間には有意な差が認められなかったが、女王とプレコセン処理区との間には差が認められた。以上のことから、プレコセンとメソプレンを処理してもワーカーのCHCは変化しないことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野外から30コロニー程度を採集し、室内で飼育して、様々な実験処理と行動観察を行ってきた。飼育実験は順調であり、メソプレンがワーカーの卵巣発育効果を持つこと確認でき、これまでの報告と矛盾は無かった。意外な発見であったのは、CHCがワーカーの生理的な状態と関連しないことであった。これまでの他のアシナガバチでの研究では、CHCシグナルは可塑的であり、その個体の生理的状態を反映していると考えられてきたが、今回の発見はそれとは異なるものである。原因として考えられるのは、フタモンアシナガバチでは、女王とワーカーのカストの分化程度が大きく、その違いがカスト分化に伴って遺伝的に既に決定されている可能性である。つまり、それぞれのカストは既に別のカスケードに乗って分化してしまっており、それは不可逆的な分化である可能性である。また、女王ではCHCの可塑的な変化が可能であるが、ワーカーではその様な変化が不可能であるのかもしれない。一方、nC27が女王の卵に特徴的に多いことを発見したことは今後の実験に応用できそうな大きな発見と言える。ほかの社会性昆虫ではnC25からnC30程度の分子量を持つ物質が女王フェロモン的に作用しており、女王の存在を示すシグナルとして働いている可能性が指摘されているからである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、ワーカーはCHCを可塑的に変化させることが出来ないという仮説が成立した。そこで、これまでに、CHCが女王とワーカーにおいて経時的に変化するのかという点について調査を行っている。女王に関しては、ワーカー羽化以前、ワーカー羽化後に一週間間隔で回収し、CHCをswabbingで回収した。同様に、ワーカーに関しても、羽化後に一週間間隔で回収し、CHC をswabbingで回収し、現在は分析中である。 一方、nC27が女王の卵表面に特異的に多かったので、その物質を卵表面に塗布して、卵の死亡率の変化を観察する予定である。実験には10コロニー程度を使い、セルの内側に人工的なセルカップを挿入し、そこに産卵させる予定である。セルカップの作成方法と、それを使った卵の回収実験は既に成功しているので、回収した卵に、nC27を有機溶媒(アセトン)で5段階程度の濃度に調整(最大濃度500pg/uL)し、1uLを卵に塗布する予定である。アセトンの影響で卵が死亡することが予想されるので、予備実験によって溶媒の量を調整するか、卵そのものではなく、卵の近傍に処理することも予定している。処理した卵とコントロールの卵は回収しアルコール保存する予定である。アルコール保存された卵からDNAを回収し、マイクロサテライト10遺伝子座を用いて親子判定し、nC27を処理したワーカー卵で生存率が上昇するかについて判定する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
CHCの文責の多くがまだ手つかずであり、また、DNA実験は全く行っていない。それらに関する諸経費が本年度は多くかかると予想される。
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