研究実績の概要 |
動物の性分化や性決定に関する内分泌学・生理学・分子生物学的機構は急速に明らかになっている。他方で、環境が適応度に与える影響の性差に注目して究極要因が研究されてきた。本研究では、両方を組み合わせた理論を展開し解析した。主な研究実績は以下の通りである。 (1)寄生性フジツボ フクロムシ幼生の性比変動モデルを作成した。雄の出現に関するESSでは、雄の出現がなだらかでも雄の出現は単一または複数のピークをもつことが明らかになった(Yamaguchi & Iwasa, 2020)。 (2)海洋無脊椎動物の多くでは、卵の発生多型が見られる。3種類の生活史のうち、いずれが進化するか、複数の生活史が共存するかを考えるために、進化ゲームを解析した。その結果、[1]プランクトン時期での成長率や生存率が高い生産的な環境では摂食プランクトン産生型が進化する。[2]複数の生活史の生産性が似ており、いずれかに密度依存性が強い場合は、1種内に複数の生活史の共存が進化することがわかった (Iwasa, Yusa & Yamaguchi 2022)。 (3)共同研究者の巌佐庸氏(九州大学)がProceedings of The Royal Society BからThe annual Darwin reviewへの招待を受けて、山口と巌佐がこれまで発表してきた共著論文の内容およびそれに関連する研究を紹介した。「海洋動物の多様な性表現の理論的研究」というタイトルで、多様な性システムを理解するためのゲーム理論を使用した研究をまとめ、このような手法は一般的なパターンを理解するのに必要であるが、特定のケースに向けたモデルの改良には至近要因を考慮する必要があり、そのためには生理学的、エピジェネティクス、分子分析から得られる情報が重要であると主張した (Iwasa & Yamaguchi, 2023)。
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