研究課題/領域番号 |
19K06839
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
安井 行雄 香川大学, 農学部, 准教授 (30325328)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 雌の多回交尾の進化 / evolution of polyandry / bet-hedging / 両賭け戦略 / 絶滅回避 / avoidance of extinction |
研究実績の概要 |
一般に雄は多くの雌と交尾するほど多くの子供を残せるが、雌は複数の雄と交尾しても(父親が入れ替わるだけで)子供を増やすことはできない。しかし多くの動物で雌は複数の雄と交尾する。この「雌の多回交尾」の進化は行動生態学・進化生態学の重要な研究課題である。 本研究は従来あまり有効でないとみなされてきた両賭け(bet-hedging)仮説を、メタ個体群構造を取り入れた新しい視点から再検討するものである。前研究課題26440241において、コンピュータシミュレーションモデルによる分析(Yasui and Garcia-Gonzalez 2016)と解析的数理モデル(Yasui and Yoshimura 2018)によって、集団中に完全な繁殖失敗をもたらす雄が一定頻度存在し、かつ雌が雄の善し悪しを判定できないときbet-hedgingによる雌の多回交尾の進化が可能であるという結果が得られていた。 本年度は理論的解析をさらに進めるとともにフタホシコオロギ実験個体群において理論を検証する実験を開始した。1回交尾させた雌(1雄交尾区)と異なる2~4雄と1回ずつ交尾させた雌(多雄交尾区)との間で卵の孵化率を比較した。実験個体群では有害遺伝子はパージされやすくまた環境変動も小さいため、卵の孵化条件に人工的な環境変動(温度や塩分濃度)を加えた。その結果、算術平均適応度(各母親の繁殖を同一世代内の独立事象とみた場合)では有意差がなかったが、幾何平均適応度(世代ごとに適温・高温に変動する条件で、同一家系が複数世代にわたって繁殖したとみなした場合)では多雄交尾が有利であった。予備段階ながら交尾失敗や環境変動による絶滅を回避する保険として多回交尾が機能していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
理論研究においては雌の多雄交尾にとどまらず、進化生物学のより根源的な課題である有性生殖の進化に研究を拡大させた。近々有名雑誌に公表できる見込みが得られている。これは予想以上の波及効果である。実験研究においては計画通りの実験を実施でき、おおむね予測と合致する結果が得られている。総合すると計画以上の進展と言って過言ではない。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は予定通りの実験的研究を進めつつ、波及課題である「有性生殖の進化」理論の論文執筆に注力する。これが公表されれば当該分野における歴史的な進展となろう。またbet-hedging polyandry理論の更なる検証実験をコクヌストモドキ、アゲハチョウといった新しい材料において行う。これらに関しても学会での研究発表や論文執筆は成果を受けて適宜行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度は理論研究に不可欠なコンピューターと数理解析ソフトウェア、モデル生物を使った実証実験のための備品・消耗品を購入した他、研究交流や学会のための旅費を支出した。次年度の研究活動のために予算を少し残した。 第2年目に当たる令和2年度は予算100万円(+繰り越し17808円)と最大の額になるが新型コロナウィルスの猖獗により国内や海外の学会出張が困難な状況にある。今年は研究と論文執筆に専念し、旅費は次年度以降に温存するのがよいと考えている。2021年9月スウェーデンでの国際会議にプレナリースピーカーとして候補者に挙げるという知らせは主催者の一人から受けている。もし実現すればふさわしい使途となろう。
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