一般に雄は多くの雌と交尾するほど多くの子供を残せるが、雌は複数の雄と交尾しても(父親が入れ替わるだけで)子供を増やすことはできない。しかし多くの動物で雌は複数の雄と交尾する。この「雌の多回交尾」の進化は行動生態学・進化生態学の重要な研究課題である。 本研究は従来あまり有効でないとみなされてきた両賭け(bet-hedging)仮説を、メタ個体群構造を取り入れた新しい視点から再検討するものである。2023年度はフタホシコオロギ実験個体群において両賭け仮説の検証実験の他にYasui (1997)のgood sperm仮説の検証実験を行った。この仮説は、どの雄が優れた遺伝子を有しているか識別できない場合、優れた遺伝子を持つ雄が精子競争に勝つ傾向があれば、雌は多雄交尾によって精子競争を誘発し優れた遺伝子を選択するというものである。Good geneを獲得し、子供の生存力を上げることが雌自身の適応度を上げることに繋がる。遺伝的に異なる白眼系統と黒眼系統のフタホシコオロギ(未交尾成虫)を用いて1雌を2雄と2回ずつ交尾させて精子競争を起こし、一母親から孵化した子供を集合飼育し父性と子供の生存率との相関を調査した。その結果、精子競争に勝った父親由来の子供は負けた父親由来の子供よりも生存率が高い傾向が見られたが相関は有意ではなかった。今後サンプル数を増やすことで、父性と子供の生存力の関係に相関をみつけることができると考えられる。 また雌の多雄交尾にとどまらず異型配偶子生殖anisogamyがいわゆる「雄を作る2倍のコスト」(子供の半数が子を産まない雄になるため、雌ばかりを産む産雌性単為生殖thelytokyに比べて増殖率が半分になる)にも関わらず高等生物において優占している理由を説明する論文を執筆し、出版するべく奮闘している。
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