現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハクセンシオマネキが巣穴入口に作る砂の構造物(セミドーム)が繁殖期・非繁殖期両方において、 雌雄の放浪個体を誘引することを明らかにした。これは、先行論文(Kim et al. 2017)と異なる結果で、今後の研究の発展に繋がるものである。 また、チゴガニの放浪個体が、巣穴個体のハサミやハサミの動きを目印に、巣穴に逃走することを明らかにした論文を国際誌に掲載した(Sakugawa et al. 2021, J. Ethol.)。さらに、ハクセンシオマネキのハサミモデルを使って、モデル選択実験を行い、静止モデルよりも、わずかに上下するモデル(1 cm)の方が雌雄の放浪個体を誘引することを明らかにした。これは、「巨大ハサミのわずかに動きを目印に放浪個体が巣穴に逃げ込む行動がwavingの起源である」ことを示す糸口となる。ただし、『wavingが感覚トラップ』であることを示すには、wavingが繁殖とは無関係の何かに擬態していることを示す必要がある。これについては、まったく不明のままであるため。
Sakugawa, N., Kasamura, K., Christy, JH., Henmi, Y. (2021) Claws and claw waving attract both sexes in the dotillid crab Ilyoplax pusilla. J. Ethol.
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今後の研究の推進方策 |
『wavingの起源は、オスの巣穴個体のハサミやそのわずかに動きを目印にして放浪個体が一時的に巣穴個体の巣穴に逃げ込んだこと』であり、オスの巣穴個体はこの性質(放浪個体がハサミやそのわずかに動きを目印にして一時的に巣穴個体の巣穴に逃げ込む)を利用して、効率よく放浪メスを巣穴に誘引する。さらに、その後、『より大きなハサミの動きがより放浪個体を誘引する目印になったため、より派手なwavingが進化した』。このことを実験的に明らかにするために、以下の研究を行う。
(1) ハクセンシオマネキのハサミモデルを使い、動きの小さなハサミより、動きの大きなハサミの方が、多くの放浪個体を誘引することを示し、wavingが激しくなった要因を明らかにする。上下 0.5, 1.0, 1.5, 2.0 cmの組み合わせで、ハサミモデル選択実験を行う予定である。 (2) wavingをまれにしか行わないコメツキガニを用いて、wavingの機能を明らかにする。ハサミモデル選択実験およびオスのwavingに対するメスの反応を野外で比較する実験を行う。 (3) wavingを行わないオサガニも、わずかに動くハサミモデルに誘引されることをハサミモデル選択実験で示す。
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