研究課題/領域番号 |
19K06842
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
栗和田 隆 鹿児島大学, 法文教育学域教育学系, 准教授 (50616951)
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研究分担者 |
川西 基博 鹿児島大学, 法文教育学域教育学系, 准教授 (50551082)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 都市化 / コオロギ / 適応進化 / 騒音 / 人工光 |
研究実績の概要 |
都市化にともなう環境改変はそこに生息している生物に進化的な変化を促す。本研究では特に、都市環境に特有な要因である交通騒音と夜間照明に焦点をあてて、コオロギの音響コミュニケーションへの影響及び都市への適応進化を検証する。今年度は、都市と郊外由来の個体の鳴き声の構造を測定したところ、都市個体で鳴き声の周波数の上昇や鳴き声の構造の一つであるchirpの短縮が見られた。これらの変化は室内の共通環境下で累代飼育した個体によるものであり、可塑的な変化ではなく遺伝的な違いを示唆する。 これらの違いは他の分類群での先行研究と一致する結果である。しかし、これらの研究はこの変化が実際に適応的なのかどうか検証されていないことが多い。そこで、交通騒音の有無をコントロールしたプレイバック実験をおこない、都市のオスの鳴き声の方が騒音下でメスに定位されやすいのかを検証した。その結果、都市由来のオスの鳴き声と郊外由来のオスの声の定位されやすさに違いは見られなかった。この結果は、鳴き声の変化が適応的ではないことを示す。 一方で、都市由来のメスは騒音下でオスの鳴き声に素早く反応することがわかった。これは騒音下で繁殖の機会を逃さないためか、捕食リスクの低下のためといった適応的な意義が考えられる。 また、騒音と夜間照明の相互作用的な効果を検証するために、夜間照明に曝す処理区、交通騒音に曝す処理区、夜間照明と騒音の双方に曝す処理区、対照区を設け、孵化直後から50日間までの生存率や羽化率、体サイズを測定した。その結果、夜間照明にさらされると成長が著しく遅くなることがわかった。これは、本種が日周期で成長を調整しているため、通常の成長ができなかったためと考えられる。一方で、騒音や騒音と夜間照明の相互作用の顕著な影響は見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的である音響コミュニケーションへの騒音や人工光の影響を概ね測定することができた。また、メスの配偶者定位行動も測定することができ、都市と郊外で異なることがわかった。このように、当初の計画どおり、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
室内実験のプレイバック実験では遠距離に存在するメスを誘引するための音響シグナルの効果は測定しにくい。そこで、野外圃場で鳴き声の再生をおこなうプレイバック実験によって、長距離のメスの誘引に対して都市のコオロギが騒音に適応しているのかを検証する。 また、今回の飼育実験では孵化から羽化までの期間における騒音や夜間照明の影響を調べた。今後は成虫期への影響を調べる予定である。特に、本種は日周期で休眠卵を産むかどうか決定しているため、夜間照明が休眠率に与える影響を調べる。また、卵生産や受精率などについても影響を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度も新型コロナウィルスの感染状況が改善しなかったため、学会出張及びサンプリングのための旅費が使用できなかった。また、学生の実験補助も依頼しにくい状況が続いた。そのため、次年度使用額が生じた。
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