研究課題/領域番号 |
19K06845
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
桑村 哲生 中京大学, 国際教養学部, 教授 (00139974)
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研究分担者 |
坂井 陽一 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (70309946)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ニセクロスジギンポ / 掃除魚擬態 / 攻撃擬態 / 保護擬態 / クロスジギンポ / 鰭かじり / 卵食 / ホンソメワケベラ |
研究実績の概要 |
掃除魚ホンソメワケベラに擬態するニセクロスジギンポと、唯一の同属種で擬態していないクロスジギンポの個体数と摂餌行動を比較するため、沖縄県宮古島および瀬底島のサンゴ礁において野外調査を実施した。 ① 攻撃擬態の進化要因:瀬底島のニセクロスジギンポは、主に固着性のイバラカンザシの鰓冠(触手)とヒメジャコガイの外套膜、スズメダイ科魚類の基質付着卵、および小型魚類の尾鰭をかじる(Kuwamura 1983; Fujisawa, Sakai, Kuwamura 2018)。宮古島では、イバラカンザシとヒメジャコガイが非常に少なく、小型個体の鰭かじりの頻度が瀬底島より高かった。大型個体では、スズメダイ類の産卵期には卵食の頻度が高く、非産卵期も卵を探す行動がみられ、鰭かじりの頻度が高まることはなかった。 ② 保護擬態の効果:宮古島において個体数調査を5月、8月、12月に実施した。スズメダイ類の産卵期には擬態種ニセクロスジギンポのほうが非擬態種クロスジギンポより死亡率が低い(保護擬態の効果がある)との仮説を立て死亡率を比較した。8月→12月のクロスジギンポの死亡率が高かったが、有意差はでなかった。 ③ 擬態の進化経路:瀬底島のクロスジギンポは、主に底質をつついて糸状藻類を食べ、たまにイバラカンザシの鰓冠をかじっていた(Kuwamura 1983)。今回、瀬底島において、これらの他にヒメジャコガイの外套膜をかじることが初めて観察された。イバラカンザシとヒメジャコガイはニセクロスジギンポと共通の餌である。これらの固着性の餌生物が少ない宮古島では、クロスジギンポはほとんど底質つつきのみで、鰭かじりや卵食は観察されなかった。以上のことから、ニセクロスジギンポの擬態は小型個体において鰭かじりの効率を高めるために進化した可能性が高いが、卵食と擬態の関係についてはさらに分析を進める必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ほぼ予定通りの調査ができた上に、予定外の成果も得られた。瀬底島において4月にニセクロスジギンポの大型越冬個体が5個体確認された。これは2014年に瀬底島での調査を再開して以来、もっとも多い越冬数である。そこで、研究協力者の佐藤初が、これら大型越冬個体の繁殖行動と、卵食における群れの協力行動の観察を実施し、夏までに多くのデータが得られた。 ニセクロスジギンポの繁殖行動に関してはこれまで論文が出ていないが、他のイソギンポ科魚類と同様に、雄がネスト(岩に空いた細い穴)を構え、雌が訪問してネスト内に付着卵を産み付け、雄のみが卵保護をすることが確認された。体色に性差がないのは擬態と関係していると考えられていたが、雌による配偶者選択行動の観察においてそれを裏付けるデータが得られた。 スズメダイ科魚類も雄が卵保護するが、ニセクロスジギンポは単独または群れでネストを襲い、保護親から攻撃されつつもネスト内の卵を貪り食う(Fujisawa, Sakai, Kuwamura 2018)。今回の大型越冬個体はしばしば群れを作って卵食し、その際にさまざまな協力行動が観察された。このような協力行動の報告はこれまでなく、詳細なデータ分析を進めているところである。 さらに、瀬底島において7月にニセクロスジギンポの体色変異個体(全長約6.5cm)を初めて発見した(Sato, Sakai, Kuwamura 2020)。ホンソメワケベラの特徴である青色がほとんど出ない茶色系で、クロスジギンポの体色と似ていた。この体色変異個体と擬態体色個体の摂餌行動を観察し比較したが有意差は出なかった。擬態効果とは無関係に摂餌できるイバラカンザシとヒメジャコガイが豊富にあり、鰭かじりの頻度が低かったことが影響したと考えられる(投稿準備中)。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染拡大防止のための出張自粛により、2020年4月以降に予定していた宮古島と瀬底島の野外調査が実施できていない。8月に再開できれば、12月、5月、8月と宮古島で調査し、摂餌行動および個体数変化のデータを増やすことができる。また、瀬底島においても群れ卵食行動のデータが追加できると考えている。万一、今年中の再開が叶わなかった場合には、2021年からデータを取り直して、期間延長を申請する。 野外調査ができない間に、昨年のデータの解析を進め、論文を投稿する予定である。体色変異個体の発見についてはすでに掲載が決まっている(Sato, Sakai, Kuwamura 2020)。体色変異個体と擬態個体の摂餌行動および死亡率の比較に関する論文も、あと少しで投稿できるところまで原稿改訂が進んでいる。このあと、繁殖生態論文と群れ卵食論文を2020年内に投稿することを目標に執筆を進めていく。
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